実録 ドラキュラ菜園に立つ 5

我弘法にあらず(もっとこだわりましょう)

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人間にはありとあらゆる可能性がある。やればできる。YOU CAN DO IT!

という幻想を振りまきながら人々の燃え盛る欲望を飲み込んでゆく場所、それがホームセンターである。他にもそういう場所はある。楽器屋とか、画材屋とか、手芸屋とか。夢見がちで不器用で間抜けなうっかりさんたちが目を輝かせて今まで使ったこともなくまたこれからも使いこなせもしないであろうものをつい求めにふらふらやってくるのを、万全の品揃えで誘う巨大な消費社会の仇花。一歩足を踏み入れ周りを見渡せば、バラ色の未来の予感。庭は花咲き乱れる楽園にしたいし、古びてきた壁紙は張り替えたいし、あそこに棚も欲しかった。そういう作業をするならばこのようなツナギを着るとよかろう、そういえばなんの不満もないがドアノブも変えてみたらもっと毎日が楽しくなるに違いない。こんな小さな暖房器具もデスク周りに欲しいし、押入れの中は白くまばゆい収納ボックスで満たして完璧にオーガナイズしたい。ネジ類もいつ使うか分からないけど一応一通りのサイズは持っていたいものだな。おおっ、ここに全ての規格対応のレンチがあるぞ。やっぱりこういうかっこいい道具を入れるにはかっこいい道具箱が必要だし。などと、ときめきは尽きないのだが、その割にはいざ欲しいものを探しに来るとハテ、この広大な敷地のどこに目当てのものがあるのだか一向に判らず途方に暮れる。それこそがホームセンターだ。

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われらは今日はそうした誘惑には脇目も振らず、農耕具コーナに一直線。欲しいのは、シャベル、それとまあ、鍬(くわ)もあるといいかな。一応。というわけでシャベルを見る。ご多分にもれず選択肢が多すぎる。なぜシャベルだけで10種類もあるのだろうか。こういう場合、いきなり素人が最高級品に手をだしても宝の持ちぐされなのであり、かといって一番安いものでも心もとない。どうだろう、この、三番目ぐらいに安いやつは。というのがわたしが道具を買うときの基本的な姿勢(松竹梅なら竹派)である。ちなみにそうして安めのものを買うと、ヘビーユーザーになった時に「やっぱりもっと高いものの方が品質が優れている」と気づくことが多いが、三番目ぐらいのものは超安い物とは違い、中途半端に「若干使いにくい/ちょっと壊れてるけどまだ使える」という状態が長く持続したりするので「もっといいものに買い換えたいなあ」と思いながら恒久的に使う羽目になることが多い。しかし、それを避けるべく意を決して最初からいいものを買った場合はどうか、というと、高いものを買った時に限って結構すぐ壊れるのである。「質のいいものをちょっとだけ持つ上質でていねいな暮らし」への道のりはかくも遠く、安物買いに戻ってまた銭失いとの間を逡巡してちっともお買い物上手にならずに人生ももう道半ばである。今回の場合は予想するに、たまにしか使わないかもしれないし、ヘビーユーザーになった時には迷わず買い換えてもよいな、と思いきれるものにしたらよいのではないか。との思惑のもと、梅派でチョイスした。さて、鍬である。農園の様子を思い返すに、周囲の人々が持っていたのは平鍬が多かったような気がする。しかし、平鍬で出来ることはシャベルでもできるのではないか。と家族会議の末、先がフォーク状の三本鍬を買った。ホラ、なんか見た目もかっこいいし。

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畑に戻って使ってすぐに気づいた。耕すのに一番いいのは、平鍬である。掘り起こすのはシャベルでもよいが、その土をほぐすとなると、三本鍬では刃の間を大きな石や土の塊がすり抜けて、思うように耕せない。しかも、土寄せもできない。おそらくこの器具は、地面に張り巡らされた根などを切り除去するなどの作業には向いているのかもしれないが、オールマイティーで素人が持つマイ・ファースト・鍬はやはり平鍬だったのだ。買い物下手はリサーチ下手、情弱の無念である。


なお、おまけであるが、鍬(くわ)と鋤(すき)とは果たしてどう違うのであろうか。鋤は鍬のように掻いたものを手前に引き寄せるような動作のできない、「あくまで掘るための道具」で、シャベルやスペードのようなものであるらしい。さらに言えば、シャベルとスペードはどう違うのか、というとネットで調べた付け焼刃知識で恐縮だが、下記の様らしい。(この辺とかこの辺などを参考にしました)用途的にスペードは掘る事に重点を置き、エッジを切り出したり根を切ったりするためのもの、シャベルも掘るのだが、掘ったものを掬う、掘り取ったものを運べる利点がある(例:シャベルは土のみならず雪かきにも使える)、という違いがあるようなので、鋤はスペードに近いようだ。

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が、じゃあどうしてトランプのスペードはどっちかというとシャベルみたいな形なのだろうか。と調べると、トランプのスペードはこの鋤的な道具スペードとは縁もゆかりもないらしい。ではトランプのスペードの形は果たして何由来なのだろうか。

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wikipedia さまなどでちょいと調べると♠︎の英語での名前スペードはイタリア語のSpada(剣)が由来らしいのだが、マーク自体はドイツでスペードを表すLaub(木の葉)の意匠がフランスで♠︎のシンボルに整えられたものらしい。ちなみにフランス語ではPiques(槍)である。ん? まあいずれにしても槍やら剣と言えば騎士、お貴族様のシンボルなので確かに農夫とは相容れぬようである。しかし、これだけどうでもいい事を調べる暇があるならなぜ買う前に「どの鍬を買えばよいのか」という重要事項について調べなかったのだろうか。まことに後悔先に立たずである。ちぇっ。(つづく)

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(全然畑の話にたどり着かないが、着々と現場は進行しているのでもう少し辛抱してお付き合いしていただければ幸いなのでございます)


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