見出し画像

「金魚」

夏の或る日
金魚が水面に浮かぶ
水中で泳いでいたときよりも
黒い斑点がぼやけて見えるのは
気のせい なんだろうか

ビニールを被せた手で
掬い上げる 金魚を
その瞬間
私の手に 死が

へばりついた

土に還そうと 土に埋める
その作業を終えて 私は手を洗う、
でも、

洗っても洗っても
洗っても洗っても
洗い落とせない
死が 私の手に
へばりついている

錯覚だと分かっている
それは錯覚だ、と分かっている
のに

ここに在るんだ、死が
私の手にまとわりついて
離れないんだ、死が
どうしても どうしても

長く生きてくれ過ぎて
名前さえ忘れた金魚の
亡霊が私の脳裏を過る
すやすや眠る娘の横で
私は亡霊を抱えたまま
じっと 身体を丸める
死がこれ以上 拡がらないように
死がこれ以上 散り散りにならないように

せめて
私の手の中で
じっとしていてくれるように

よかったらサポートお願いいたします。いただいたサポートは、写真家および言葉紡ぎ屋としての活動費あるいは私の一息つくための珈琲代として使わせていただきます・・・!