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【植民地的】コロニアル・ビートルズ【帝国主義的】

世界は全く平等でなくて、平等でなくて良いのかもしれないのだけれど、もし平等でないことに本気で憤るなら、平等でない現実を直視しして受け入れることから始めないと、私達の住む世界はベストどころかベターにもならない。

かつて白人たちがリヴァプールから出航し武器を持って黒人たちをジェノサイド大量虐殺・占領し(それはセットだ)植民地として支配し、女性や子どもを含み労働力として奴隷や資源を搾取し、そしてまたリヴァプールから商品たちを世界中で売り捌いて富んでいく。そうやって大英帝国は日本とそう変わらない大きさの島国でありながら世界中を征服し、世界中に自分たちの言葉を話す英語圏の国々を作り上げた。
リヴァプールは港湾都市として大英帝国の資金源を貿易で支えた経歴で世界遺産に登録された。その意義と価値にビートルズの要素は微塵もない。

そもそもビートルズが英語で歌い、世界中の人が英語で彼らの歌を歌うのは、大英帝国が武器を持って世界中に市場、英語圏マーケットを切り開いたからだ。
リヴァプール生まれのビートルズは英国帝国主義の最後の眩い残照であり、輸出物。そう考えると、「多大な外貨を獲得した」として英国王室から勲章を受けたことにも納得が行く。

インドは英国の一番身近な植民地。その関係性は「小公女セーラ」や「秘密の花園」にも書かれている。同じバーネットの「小公子」もセドリックの住むアメリカは英国の植民地だったし、シャーロット・ブロンテ「ジェイン・エア」もロチェスターは富のために植民地の女性と結婚させられる。エミリー・ブロンテ「嵐が丘」のヒースクリフもまるでインドの王子のようだという表現があり、その富は貿易で気づかれたことを匂わせる。英国の富と植民地からの搾取はセットだ。

そう考えると、リヴァプール生まれのジョージがインドに惹かれたことは自然なのだろう。
ジョージ自身は空襲に怯えるリヴァプールの妊婦だった母親が、少しでも穏やかに過ごしたくてインドの音楽を聴いていたのは覚えていないのかもしれない。

けれど、ジョージが、ビートルズが、英国帝国主義と決定的に違うところがある。

大英帝国は、インドから紅茶や綿やゴムを搾取することしか考えず、そのためには反抗するインド人たちを大砲にくくりつけて吹き飛ばすまでしていた。インド国内ではマイノリティであるパールシーを優遇し武器を送り内戦を引き起こした。
(日本にも外様大名や下級武士たちに同じことをしてテロリストの若者たちに明治維新という革命政府を作らせた)

ビートルズはインドで誰ひとりとして殺さなかったのはもちろん、その音楽や哲学性をリスペクトして愛した。

インドの人たちは、英国の帝国主義とは非暴力・不服従で戦ったが、ビートルズのことは歓喜で受け入れ(ローマ帝国からの侵略を喜んで受け入れ誇りにした中世以前の英国やとドイツのように)そして、インド古来の音楽を愛し、学び、ジョージに至ってはアイデンティティとしてビートルズナンバーやソロ曲に取り入れていることに感動し、誇りとした。ジョージは現地の人でさえ難しいインドの民族楽器シタールの演奏を、インドに渡ってまでラビ・シャンカールについて熱心に練習し、メンバーや恋人たちを連れて、マハリシ・ヨギの質素な生活が必要な瞑想キャンプに何週間も滞在し、リシュケシュはホワイト・アルバムに繋がりソロにそれぞれ花開くインスピレーションを与えられた聖地となった。

ビートルズの成し遂げた奇跡はいくつもあるけれど、コンサートツアーで黒人を隔離するホールでの演奏を拒否し、アメリカのアパルトヘイトをブレイクスルーしたのと同じくらい、このインドとの出会いと真剣な学びは、世界を変えた新しい一歩だと思う。

それは白人たちにとって他者であるカラード、黒人を含めた有色人種たちを他者として、ステレオタイプ的に歪曲化し、貶め、わかりやすく陳腐なアクセサリーとして薄っぺらく扱うこととは違う。
彼らはアイドル時代に諮らずも映画「ヘルプ」のなかでインドやインドの神をディズニー的ドタバタとして利用し、インドの人たちを軒並み不快にさせた。

それは、ゲイシャやハラキリなど滑稽なエッセンスとして日本文化モドキを取り入れる昔のハリウッドや、女性を性的役割を持つ以外、人間として見ようともしない部類の男性にも通じる愚かさなのだけれど、ビートルズはその、白人の先人たちの歪んで腐りきった枠を、越え、溶かし、変えてしまったのだ。

それは、ビートルズを薄っぺらい、そこそこイケメンでそこそこ才能のある他のロケンローラーな若者たちと取替えのきく、運も味方したようなアイドルから、唯一無二のアーティストに押し上げた要因のひとつと言ってもいい。彼らは確実にインドと、インドに象徴されるかつて植民地であった世界、差別されたあちら側の他者としての世界、その無知に対する壁をぶち壊した。

ジョンとヨーコ、西洋と東洋の結びつきがそれをわかりやすく象徴するように映るけれど、まず最初にビートルズでそれをやってのけたのはジョージとインドなのだ。

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