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約束の記憶 第二章 5話

小説 第二章 5話

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学は一葉がコーヒーショップに入っていくのを見届けて、その近くまでテレポーテーションした。

「数秒で前回と同じ店が作れるとは、小坂さん仕事できるね〜」

小坂が携わるRプロジェクトでは、空間操作を許可されている。店を作ったり、道を作ったりするのは簡単にできるが、人間の記憶をいじるのがやっかいなので、新たに作った空間にいる人間は、基本ダミーを使う。

この店の従業員も客も、みんなダミーだ。
森田一葉をのぞいては。

日本仕様の黒髪、黒い目に変えて、誰もいない方向に向かって手を振り、小坂にお礼を言った。

店に入ると一葉がいち早く見つけ、手を振ってきた。

笑顔で手を振りかえして、一葉のテーブルについた。

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「ここで会うの2回目だね」

にこにこ楽しそうに笑っている一葉。

「そうだな。わざとだけど(笑)」

「わざとなの!何か用事?」

「そっ単刀直入に聞くけど、一葉はこのプロジェクトの事どう思ってる?」

「え?」

「何か不満に思っていることがある?」

「どうしてそんなこと聞くの?」

「いや、不満があれば早めに改善できたらいいだろ?」

「そうだけど」

「なにかある?」

一葉はじーと考え込んで、ポツリと言った。

「改善できるようなことじゃないから言わない」

「なんだよそれ、そんな気持ちでやってたら、この先失敗するぞ」

「だって、そもそもだから」

「いいから言ってみろよ」

「R空間に行かないで、普段の生活の中でできればいいのに‥」

はぁ、そんなことか。

「そりゃそれが一番だけど、それでだめだったからこのプロジェクトができたんじゃないか」

「はぁ、だかぁらぁ、そもそもだから改善するとかの次元じゃないでしょ」

「まっそうだけど、じゃあどうして今の方法ではダメだと思うんだ」

「短期間に生き直すための最善の方法だけど、新たな傷を作ってしまう」

なるほど。

「例えば?」

「浅倉もみじのケースだと、子ども達に母親が眠りから覚めないというトラウマができた」

「それは‥」

「もみじはR空間での体験で、子どもたちの存在を忘れていたことに罪悪感をもってた」

「それはおかしいだろ。そうならないための記憶の調整がされているはずなのに。一葉おまえ‥」

「なによ」

「なんか隠してないか?」

「隠すも何も、みんな丸見えじゃない」

そりゃそうだ。考えていることも行動も丸見えだ。隠れて何かすることはできない。

「とにかく浅倉もみじの件はレアケースだ。報告していないことでなにか思い出したら教えてくれ。直接接触したりするなよ」

「わかってるわよ。ねぇ」

「なに?」

「あなたはこれがミッションだと思ってる?
これが地球でやるべきことだったと思ってる?」

「当たり前じゃないか」

「ほんとに?」

「あぁ」

「そう」

「納得していないのか?」

「やるべきことはわかってる。でもやり方がこれでいいのかわからない。納得していないのは、私のただのエゴかもしれない」

「そか、言いたいことは我慢せずにいつでも聞くよ。一葉は地球に長くいすぎたのかもしれないな」

「よく言うわ(笑)」

あとは他愛のないことを話して別れた。
しばらく様子を見て、応援を呼ぶか検討しよう。

浅倉もみじには普通の人間とは、なにか違うものがあるのかもしれない。要注意だ。

つづく
(次回は4/10にUPします)


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