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宙からのおくりもの

✽あらすじ✽
お母さんのスズランと一緒に静かに暮らしていた、ハリネズミのライラック。ある夜、宇宙でとある“お仕事”をしているという、ちいさな妖精さんが空から落っこちてきました。お迎えがくるまでのあいだ、ライラックは宇宙であった楽しいお話を聞かせてもらいます。そして夜が明けたころ、妖精さんを探しにきたものはなんと……?


◇◆◇


とある色とりどりの花が咲きほこる、小さな村。そこに、小さな小さなハリネズミの親子が暮らしています。お母さんの名前はスズラン、子どもの名前はライラックです。
ライラックはままが大好きな甘えん坊。だからいつもぴたっとスズランままのそばにくっついていて、今日あった楽しかったこと、嬉しかったことを話します。二匹とも夜空に輝くお月様やお星様を見ながらお話するのが大好きで、今日もスズランまま特製の温かいミルクティーを飲みながら、夜空の下穏やかなひとときを過ごしていました。
「あのねあのね、今日庭で遊んでたらきれいな石ころ見つけたんだ、ほら」
「あらあら。またひとつ宝物が増えたわね」
「うん!」
そんな会話を30分ほどしているうちに、どうやらライラックは眠くなってしまったようです。大きなあくびをしながら、「まま、もうがまんできないや。一緒に寝ようよぅ」と甘えた声を出しました。
「そうね、今日は暖かいし、夜空を見ながら寝ましょう」
スズランままはお布団代わりに葉っぱを一枚持ってきて、そっとライラックのお腹にのせました。
「おやすみ、まま」
「おやすみなさい、ライラック。いい夢見るのよ」


          ✽


そして二匹が寝静まり、時計の針が午前4時を指したとき…。
突然、カサカサっと不気味な音がしました。
普段は静かな場所です。だから二匹はその音にパチっと目を覚まし、辺りを見渡しました。
「いまの音はなあに?まま」
そう言って音がしたほうを見ると、なんと少し先に、おとぎ話に出てくるような小さな妖精さんが草の上で横たわっていました。
ライラックは驚きのあまり、口をあんぐりさせながらスズランままの手をぎゅっと握りました。
「お、お母さん、この子なあに?」
ライラックが尋ねると、スズランままはいつものように穏やかな表情で、「あらあら、大変。こっちへ一緒にきてごらん」とライラックの手をひいて妖精さんのもとへ駆け寄りました。
「まあ、これは星のカケラね」
スズランままがそうつぶやくと、「星のカケラ?星って、あの、夜になると見える星のこと?」ライラックは首をかしげました。
「ええ。たまにこうして地上に落ちてくるのよ。この子もまだ子どもね。そう、あなたと同じくらいの」
スズランままが優しげな眼差しでライラックを見つめます。
すると突然妖精さんが目をぱちっと開けて、むくっ、と起き上がりました。そして周りをきょろきょろ見渡して、「あれ、ぼく、また落っこちちゃったんだ」とつぶやきました。そしてスズランままとライラックの顔を見ると、妖精さんはまるで人間みたいに、頭をぽりぽりしながら苦笑いしました。
「おケガは大丈夫かしら?」
スズランままが心配そうに妖精さんをひょいっと抱き上げました。
「はい、大丈夫です。ちょっとだけ足が痛いけど…」
見ると、妖精さんの足から少しだけ血が出ています。
「わわ、大変だよ、まま。早く手当てしてあげなくちゃ」
ライラックはそう言って、近くに咲いていた葉っぱをぷちん、と切って妖精さんの足にはりつけました。
「これで良くなるはずだよ」
「ありがとう。おかげで、なんだかもう痛みがひいたみたい」
妖精さんはそう言ってライラックに微笑みました。
「ところで、きみは一体何者なの?ままは星のカケラだって言ってたけど…」
「そのとおり。ぼくは普段宇宙に住んでる星なんだ」
まるで物語のなかでしか聞けないようなその言葉に、ライラックは目をまんまるくしました。
「でも…ここは地球だよ?宇宙じゃないよ?ね、そうだよね、まま」
どうやらライラックは、自分がいまどこにいるのかわからなくなってしまったようです。その様子に妖精さんは、ふふ、と楽しそうに笑います。スズランままも、「大丈夫よ、わたしたちはどこにも行っていないから」とライラックを愛おしそうに見つめました。
「お騒がせしちゃってごめんなさい。いまはまだ暗いけど、夜が明けたらお月様が迎えにきてくれるから、それまでここにいるよ」
「えっ、お月様が迎えにきてくれるの?」
「そうだよ。いま来ちゃったら、お月様が消えたって地球のみんなが騒いじゃうからね。朝になったらこっそり迎えにきてもらうんだ」
「すごい…」ライラックは呆然と妖精さんの顔を見ました。
「きみはお月様と仲良しなの?」
「うん!お月様もぼくも同じお星様同士だからね。いまぼくはこうして妖精の姿をしてるけど、きみたちが住んでるこの地上からはぼくたち妖精は星に見えるんだ」
「すごい!じゃあもしかしたらぼく、きみのことをずっとここから眺めてたかもしれないんだね」
ライラックは嬉しそうに空を見上げました。
「きみたち星は、宇宙ではどんなことをして過ごしてるの?」
すると妖精さんは、誇らしげに少し胸を張りました。
「ふふ、実はぼく、宇宙で郵便配達をしているんだ。それで、郵便屋さんって早くお手紙とか荷物を届けないといけないでしょ?だからぼくも早く早く、って言いながら移動していたんだ。そしたらあまりに急いでたせいか宇宙ゴミにぶつかっちゃって。あっという間に地上に落ちちゃったんだ」
「郵便屋さん?宇宙にも郵便屋さんなんているの?知らなかった」
ライラックは目をくりくりさせながら妖精さんをじっと見ました。
「地球の郵便屋さんみたいに、誰かのお手紙を届けてるの?」
そうライラックが聞くと、妖精さんは「ううん」ともったいぶるようにゆっくり首を横に振りました。まるで、いまから言う言葉でライラックを驚かせるのが楽しみみたいに。
「ぼくたちが届けてるのは、きみたちの夢だよ。夜空に流れ星が見えると、みんな叶えたい夢を一生懸命祈るでしょう?それをぼくたち星が受け取って、集めたものを大切に保管してる場所に届けるの。それがぼくたち郵便屋さんのお仕事なんだ」
思ったとおり、ライラックは「えー!」と声を上げました。そしてスズランままの腕を引っ張りながら、興奮したように、「すごい、すごい!ぼくたちの夢、ちゃんと届けてくれるんだね」と嬉しそうに言いました。
「うん、もちろん。ちゃんと形にして残しておくんだ。…お月様がくるまでまだかかりそうだから、特別にちょっとだけ見てみる?おっと、でもとってもとっても大切なものだからね、触らないでみるだけね」
そう言って妖精さんは、肩にかけていたポシェットのふたを開け、なにかを手のひらにのせました。ライラックは近づくと、思わず「うわあ」と歓声をあげました。
それもそのはず、手のひらにのっていたのは、まるでこの世のものとは思えないほどキラキラと輝いた、砂粒ほどのまあるい水晶だったのです。しかも一個や二個だけではなく、たくさんの水晶がそこにはありました。
「きれい…」ライラックはため息とともに水晶を見つめます。
「でしょう?これぜーんぶ、みんなが流れ星に祈った想いからできてるんだ」
「ほんと、いつ見てもキラキラしていてきれいねえ…」
スズランままも水晶から目を離さずつぶやきました。
「えっ、ままはこれ見るの初めてじゃないの?」
「ふふ、あなたが生まれる前にも一度、別の地で妖精さんが落ちてきたことがあったのよ。その子が言っていたけれど、郵便屋さんになりたてのころはみんな、一度は地球に落ちてきちゃうみたいね」
「うん、ぼくも地球にきたのはこれで3回目だよ。落っこちながら、今日は地球の誰と話せるかなあなんて考えちゃったよ」妖精さんは照れくさそうに笑いました。
「ぼくたち郵便屋さんの新米はこうやって一回は落っこちちゃうからね。慣れるまで、パラシュートをつけて仕事するように言われてるんだ」
「それでかすりきずで済んだんだね、良かったあ。でもでも、宇宙から落ちてきたのによく水晶も無事だったねえ。こんなにちっちゃくてすぐ割れちゃいそうなのに」
「ふふ。これはね、とっても大切なものだから絶対に傷つけるわけにはいかないんだ。だからほら、水晶を守るためにこのポシェットもすごく頑丈にできてるんだ」
「へえ。すごいや、宇宙にもそういうものがあるんだね」
そしてライラックは、もっと宇宙の話を聞かせて、と妖精さんにおねだりしました。妖精さんは笑顔でこくりとうなづくと、宇宙であった面白い出来事やびっくりしたことをライラックとスズランままに聞かせてあげました。

       
          ✽


そんなふうにおしゃべりしていると、いつの間にか空が明るくなってきました。太陽が辺りの景色を包み込むように顔をのぞかせます。
すると、どこからともなく、どしどし、と地面を揺らしながら歩いてくる影が見えました。
「おーい。迎えにきたよー」
見ると、そこにいたのはなんとお月様です。
「あっ、お月様!ここだよ、ここ!」
妖精さんは短い腕を思いっきりのばして手を振りました。お月様はその声にほっと顔をほころばせて、また大きな足音をたてながらこちらに向かってきました。
「良かった良かった。大きなケガはないみたいだね」
「うん。彼が葉っぱで手当てしてくれたからへっちゃらだよ」
そしてライラックを手でしめしました。突然のお月様の登場に、わかっていたとはいえやっぱり緊張を隠せないライラック。初めて妖精さんの姿を見たときと同じように、目をぱちぱちさせています。
「これはこれは…。本当にありがとう。そしてびっくりさせてしまって申し訳ないね」
「いっ、いえ、そんな。ぼくはただ葉っぱをちぎって手当てしただけです」
「いやいや、その御心が素晴らしい。そうですな。お礼にと言ってはなんですが、これをあなたにさしあげましょう」
そう言ってお月様は、なにかをライラックの手に握らせました。ライラックが手のひらを広げて見ると、さっきの水晶よりもひと回り大きい水晶がありました。思わず目がくらみそうなほど、キラキラと光をはなっています。
「これはわたしが、地球のみなさんの夢が叶うように祈りを込めた水晶です。祈りのパワーはとても強力なんですよ」
お月様はライラックの目をまっすぐ見つめます。
「もしこれから生きていくなかでなにか悲しいことやつらいことがあったら、そのときは空を見上げてください。いつも、あなたやあなたの大切なひとのことをわたしたちが見守っていることを忘れないためにも。わたしや星たちは、世界でなにがあっても、あなたがどこに行っても必ず、そばにいますから」
お月様のとても優しげな声色に、ライラックは目をうるませました。
「はい、ありがとうございます。大切にします」
うん、とお月様はライラックの頭をポンポンと撫でました。
「それじゃあ、ありがとう。たぶんこれでお別れだけど、ぼくのことが恋しくなったら空を見てね」
妖精さんはそう言って、ライラックの手をきゅっと握りました。
「うん。今日はありがとう。またね、って言いたいけどケガしちゃいけないし、次夢を運ぶときは落っこちないように気をつけてね」
「うん、そうするよ。どうもありがとう。お月様も言っていたように、ぼくたちはずっと、きみたちの上にいるからね。忘れないでくれると嬉しいな」
「もちろん!これから夜空を見るときは、ままと妖精さんいまごろなにしてるのかなあって話しちゃうよ」
「ええ。妖精さん、お月様、素敵なひとときをありがとうございました。帰りはどうか、お気をつけて」
「はは、もう落っこちた星の子を迎えにくるのは慣れてますから、目をつむりながらでも宇宙へ帰れますよ」お月様は笑いながら妖精さんをひょいっと抱き上げました。
「それでは、また。お元気で」
そしてひゅん、と大きくジャンプをしたかと思うと、そのまま空に向かって飛び立っていきました。



しばらくすると、かすかな流れ星がひとつ、ピンク色の空を横切りました。どうやらお月様と妖精さんは無事に宇宙へと帰ったようです。

「さあ、ライラック。ずっと起きていて疲れたでしょう。温かいスープ用意するから、お家に入りましょう」
「うん!」
ライラックは小さく、「また今夜ね」と空に向かってつぶやくと、スズランままの手にひかれながらお家へと戻りました。



最後までお読みいただきありがとうございます✽ふと思い出したときにまた立ち寄っていただけるとうれしいです。