『きみの名前』

ずっと、自分の名前がきらいだった。
きっかけは、幼稚園のときに流行ったアニメ。そこに出てくる悪役のキャラクターと同じ名前。ただそれだけのことで、次の日から友だちにからかわれるようになった。
いま思い返せば、くだらなすぎて自分でも笑ってしまう。いくら、まだ現実とアニメの世界の境界線が曖昧な年頃とはいえ、あまりにも理不尽で安直すぎる理由だ。からかわれた事実から目をそむけたら、かわいいとさえ思ってしまう。
それでも当時の自分にはとても悲しい出来事だった。どうして正義のヒーローと同じ名前にしてくれなかったんだろう。何度もそう思った。
でも、片手で数えられるくらいしか生きていなかったぼくに、それをはねのける術は身についていなかった。

だからぼくは、自分の名前をきらいながら生きてきた。



あれから長い年月が過ぎて、きみと出会った。そしていつしか付き合うようになって、少し照れたように初めてぼくの名前を呼んでくれたとき。

きみの声で呼ばれるぼくの名前は、不思議ときれいなものに聞こえた。一瞬、自分の名前を呼ばれたと気がつかなかった。それほどまでに、優しい響きだった。
それはきっと、きみのやわらかな声が、ぼくの名前をふんわりと包み込んでくれるように感じたからかもしれない。

「わたしはあなたの名前、大好きよ」

そう言って、ぼくの顔をのぞき込む。

「わたしの声で、あなたの名前を好きにしてあげる」

少し強気なその発言と、いたずらっ子のような笑顔にまんまとはまってしまったぼくは、単純なのかもしれない。だって、ずっとずっと嫌いだったぼくの名前を、ほんの少しの時間と声だけで心地いい響きに変えてくれたんだから。

「自分の名前を好きになるまで、何度でもあなたの名前を呼んであげる」


きみの優しい宣戦布告に、ぼくは救われた。


Fin.


なにか小説を書きたいけどお題が思いつかないな…と悩んでいたのですが、こちらのサイト(http://ria.saiin.net/~tenkaisei/index.html)
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もしよろしければまたのぞいていただけるととっても嬉しいです〜!

最後までお読みいただきありがとうございます✽ふと思い出したときにまた立ち寄っていただけるとうれしいです。