400字小説『好きの小論文』
「あなたとあなたの大切なひととの日常で感じる幸せを、400字以内で伝えなさい」
妻とケンカした翌朝。リビングへ行くと、テーブルの上には原稿用紙一枚と、かわいらしい字でそう書かれた手紙が置かれていた。すみのほうには、「怒っているので今日は一日ショッピングしてきます。怒」とちいさくつけ足してある。ぼくはつい頬をゆるめながら、すこし考えたあと、かたわらに置いてあったペンを原稿用紙にすべらせた。
「大切なひととの大切な日常を400字でまとめられるほど、ぼくが感じる幸せは単純じゃありません。だから口頭試験にさせてください」
そう記して、最後に、「昨日はプリンを食べてしまってごめんなさい」とつけ足した。
ぼくはソファに身を沈める。──妻が帰ってきたら、めいいっぱいハグをしよう。そしてめいいっぱい気持ちを伝えよう。無事に合格したら二人で一緒にプリンを食べよう。やさしい彼女はきっと及第点はくれるはずだから。
♢おまけ♢
400字ジャスト(原稿用紙一枚ぶん)でした🐇
最後までお読みいただきありがとうございます✽ふと思い出したときにまた立ち寄っていただけるとうれしいです。