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💭どこかの街の、架空の思い出たち💭

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短編小説や詩などを載せています。
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2020年3月の記事一覧

『季節はずれの物語』

雪が特別なものじゃなくなったとき、ひとは大人になったって言えるんじゃないかな。 電話越しに聞こえた彼の声は優しげで、まるで地面に落ちたら一瞬で溶けて消えゆく雪のように、わたしたちの空間を伝った。 その声がわたしにはとても心地よくて、凝り固まった心がとろん、と柔らかくなる。 ✽ ー大人になるって、どういうことなのかな。 今日食べたプリンが美味しかったの、大好きな作家さんの新刊が出てたから買っちゃった、来週のデートはどこに行こうか……。 そんな他愛もない話を電話越しに交わ

『きみの名前』

ずっと、自分の名前がきらいだった。 きっかけは、幼稚園のときに流行ったアニメ。そこに出てくる悪役のキャラクターと同じ名前。ただそれだけのことで、次の日から友だちにからかわれるようになった。 いま思い返せば、くだらなすぎて自分でも笑ってしまう。いくら、まだ現実とアニメの世界の境界線が曖昧な年頃とはいえ、あまりにも理不尽で安直すぎる理由だ。からかわれた事実から目をそむけたら、かわいいとさえ思ってしまう。 それでも当時の自分にはとても悲しい出来事だった。どうして正義のヒーローと同じ