美しきバケモノの夢のはなし


私は「世界中の子ども達に映画を届けたい」と、ただそれだけを思っている人で、恥ずかしながら何か深い知識があるわけではない、吹けば飛ぶような薄っぺらい人間だなと思う。

そんな私が立ち上げた活動に厚みと自信を持たせてくれて、「国際協力」のひとつと呼んでも良いのかもしれないと思わせてくれる人がいて、その名を近藤碧(こんどう・みどり)、あだ名をこんちゃんという。

こんちゃんに初めて会ったのは、もう何年前だろう。3年か4年か5年前か忘れたけれど、場所はたしかサンマルクカフェだった。

メンバー募集フォームから応募してきてくれたのがこんちゃんだった。

出会ったときからこんちゃんはセクシーで(いやらしい意味ではなく)、品があって、優しく、華奢で、ハンドバックが似合いそうな服装なのに、さっとリュックを肩にかけてコツコツ歩いていく姿が美しくてかっこよくて、私はその後リュックを買いました。

アフリカや南米にも駐在し、現地で国際協力と子どものスペシャリストとして働いていたこんちゃん。現在はシンクタンクで国際協力の現場を評価したり、ソーシャルワーカーとして児童福祉の仕事をしたりしている。

フットワークの軽いこんちゃんは、自腹でさっとカンボジアに飛び、移動映画館の現場を見てきてくれたりもした。

帰国後に「メモ程度でお恥ずかしいですが…」と書いてあるメールに添付されていたのは冊子のような報告書で、これがプロの仕事なんだと驚いた。課題の多さもさることながら、私たちってなかなかまともな活動をしてたんだ!ということにも驚いた。



こんちゃんは映画も大好きで、映画検定1級を持っている。うちの団体を知ったのも、カンボジアに仕事で行っている時に映画を観ようとして、「カンボジア 映画」で検索したら出てきたからだそうだ。

子育てしながら保育士の資格もとり、子育てしながら海外の大学院にも合格している。誰かにこんちゃんを紹介するとき、尊敬と敬意を込めて「バケモノみたいな人」と紹介している。


そんなバケモノみたいなこんちゃんと、夜な夜なLINEで子ども(自分達の子どもやストリートチルドレン、世界中の子どもに至るまで)の話や映画の話、映画の力の話をしている。

こんちゃんが紡ぐ言葉のすべてに愛があり、どんなに愚かなことを言ってしまっても共感で包んでくれるので、こんちゃんとのLINEはとても心地よく、こんちゃんとの会話の時間を、私はとても愛している。

そして時おり胸がしめつけられたりするのだ。


たとえば福祉の現場でこんちゃんが見てきた子ども達の話。

「日本の身近な地域でも、身寄りのない子どもがたくさんいるんです。

身体障害があるからといって親から手放された(施設に預けられた)子や、生まれてすぐに乳児院にきて、お母さんだと思った人は実は乳児院の職員で、乳児院(0歳ー3歳になるまで)を出て、児童養護施設(3歳以上の子どもを保護する施設)に移るときに、

自分には誰もずっとそばにいてくれる人がいないということを、わかってしまった3歳の子どもの気持ち……

乳児期のネグレクトによる愛着障害で、里親を転々とし、どこでも問題行動を起こして、うまくやっていけず、施設に戻ってくる5歳の男の子……」

会ったことない子を想って勝手に涙して、私はカンボジアのシェムリアップで見た男の子の話をした。

パブストリートで観光客が踊り騒ぐ夜の23時。一本隣の路地裏で、一生懸命ゴミを拾っていた、ボロボロの服を着た男の子の話。その日はクリスマスイブだった。

この話に対して返ってきたこんちゃんの夢の話に引き込まれた。

「このような光景…目に焼き付いて離れませんよね。

あの子どもはどんな1日を過ごしてるんだろう、家に帰って心休まる時間はあるのか、人知れずたくさんの涙をこぼして、自分の環境に悔しくて歯を食いしばってこらえているのだろうか…お腹もすいて、たくさん可愛がってもらいたくて、とぼとぼ歩いているんじゃないか…と。

こんな子どもたちが、お仕事の合間に、ちょっと息抜きに、わずか一時でも心が晴れやかにそしてワクワクする気持ちになる仕掛けとして、パブリックシアターや移動映画館の存在を信じています。

ふらっと立ち寄ってみてみたら、心が温まった…私も夢を持って頑張りたい…と思える場所。

そして、パブリックシアターの周りには、こども銭湯のような無料で入れる公衆シャワーやNGOの支援窓口、こども食堂のようなご飯の配給場、無料の学習塾(たとえば、ユネスコさんに寺子屋してもらうイメージ)などがあって…

毎週、街のある広場で開催されて、ストリートチルドレンや孤児院の子ども、家出したり児童労働してる子どもたち、誰でもウェルカムなシアターイベントで、

そしてさまざまな援助や支援につなげるブースも設けて、支援を求める子どもたちをしっかり支援につなげられる仕組みをつくる…

私の理想はこんな形です…」


日本でも世界でも、たくさんの子どもたちを見てきたこんちゃんの理想がとても素敵で、実現したくて、そこに参加してくれる子どもたちを想像して、その夜はなかなか眠れなかった。







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