ニンジャスレイヤー二次創作SS「リトル・レジスタンス・オブ・ツー・ガールズ(後編)」

これはニンジャスレイヤーの二次創作小説です。オリジナルキャラが主人公です。本編のニンジャや他の人たちも出ます。時系列的には第3部序盤のネオサイタマのイメージです。これは後半で、前編は下記の記事です。

翌日、ミコトとノゾミはトコシマ区の中央部に足を運んでいた。重金属酸性雨は止んでいるが、分厚い雲のために辺りは薄暗い。ミコトは長袖のTシャツと長ズボンを着用し帽子を被り、一見すると少年のような風貌である。一方のノゾミはTシャツの上にジャケットを羽織り、ミコトと同様に長ズボンを着用している。悪漢に睨まれないように目立たない格好をしているが、ノゾミのやや幼いが整った顔つきや佇まいに目を止める者もいる。

「事故のことだけど」周囲の視線を気にせず、ノゾミは唐突に話を持ち出す。「叔母さんが勤めていたカイシャで、少し前に問題があったみたい。なんか飼育していた動物が作業員を攻撃したとか・・・」ノートを取り出し、ミコトにそれを見せる。「そんなことがあったんだ」「うん。新聞には載ってなかったし、IRCで見つけるのに苦労したよ。叔母さんのカイシャの友達にも聞いたら、実際にあったことだって教えてくれた」

「こういう時のノゾミって行動力あるよね。いつもは控えめなのに」「犯人を早く見つけたいからね。・・・それに」ここでノゾミは少し照れた表情になる。「それに?」「私も好きだから。探偵」「やっぱりノゾミに似合ってるよ」「ふふっ、ありがと」

仲の良い2人はショッピングモールにある「眼鏡天国」という名前の店に入る。そこには客のニーズに合わせたレンズと、様々な形や色のフレームを取り揃えており、さらにはサイバーサングラスも購入することができる。この店は良質で多種多様の眼鏡を安い値段で販売しているため、他の地区でも有名であり、多くの客で賑わう。

ノゾミは気になったフレームを手に取りながら一つずつ吟味する。ミコトは真剣にフレームを見ながら表情を変えるノゾミを眺める。「ごめんね、暇だったら別のお店を見に行ってていいよ」ミコトの目線に気がつくと、ノゾミはやや申し訳なさそうに言う。「ううん、ノゾミを見てるの楽しいからそのまま見とく」「エー、面白そうって何よ」「本当に面白いんだもん」ノゾミは頬を膨らませるが、それがまたミコトを微笑ませる。それにつられてノゾミも笑う。

ミコトは再び眼鏡探しに戻ったノゾミを眺め続ける。叔母が亡くなってからノゾミは再び心に傷を負い、塞ぎ込むことが多くなっていた。こうして笑い、ふざけ合いが出来るようになるまで回復したのは最近のことだった。

(良かった・・・本当に)ミコトは心の底からそう思う。そして、これから先もこの笑顔を守ることだけを考えていこうと決意する。ニンジャになった今なら容易なことだ。大丈夫。アタシなら絶対に出来る。ニンジャだから。ミコトは自分に言い聞かせる。しかしその自信が打ち砕かれるのは、すぐ後のことであった。


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ショッピングモールを出た2人は自宅へ向かって歩く。「気に入ったのが見つかって良かったね」「うん、来週に取りに行かなきゃいけないけど」ノゾミは薄く透明に近い銀色のフレームを選んだ。薄型のレンズは取り寄せになったため、後日改めて取りにくることになった。「今度もまた付いてきてくれる?」「どうせ暇だし、いいよ」ミコトはうなずく。

店の集合地域を出て周囲がカラフルな色から灰色に変わる頃、ミコトは何か奇妙なアトモスフィアを感じとる。これまであまり感じたことのないものだったので、一瞬理解できなかったが、それは殺気だった。「ノゾミ」ミコトはノゾミの手を握る。緊張で少し力を入れてしまった。「痛っ。な、なに?」「ごめん。少し回り道をしていい?」「え?」「誰かに見られてる」「えっ!?」「声、低くして」ノゾミはハッとして片手で口を抑える。2人は歩き出す。

「あの隙間を通るよ」「う、うん」2人はビルとビルの隙間に入る。少し歩くと道が直進と右折の二手に分かれている。ミコトは直線方向から似たような殺気を感じる。「右に行こう」右折する。再び右折と左折の分かれ道に到達する。今度は左から似た殺気。右折!今度は左折と右斜め奥の二手だ。右斜め奥の方向から殺気。左折!次に直進、右折、左折の選択肢。左右からそれぞれ同じ殺気。直進!

「おかしい」ここに来てようやく、ミコトは違和感を感じはじめた。「な、なにが?」ノゾミは怯えながら聞く。「なんだか誘導させられている気がする」「た、確かに・・・」路地裏に入ったのはウカツであったか?だが、背後からの殺気が彼女たちの後退を許さない。そうしてついに、ミコトとノゾミは広場にたどり着いた。

「ここは・・・」ビルで囲まれているこの広場は、厚い雲で覆われたネオサイタマでもさらに薄暗く、唯一の出入り口は今まさに入ってきたところしかない。出口付近にはマンホールがあるだけで、周囲には木材や金属の棒、ゴミなどが散乱している。

「フフフ、鬼ごっこは楽しめたかな?お嬢さんがた」突如、背後から男の声が聞こえた。2人は振り返ると、そこには双子のように同じ顔をした角刈り頭を持つサングラスの男が 12人、横一列になって手を後ろで組みながら威圧的に立っている。ミコトは殺気の正体はこの男達だと直感的に理解した。

そしてその中央には異様な風貌の1人の男が立っていた。ケモノの毛の毛深さを彷彿とさせる髪にヤクザスーツを着こなし、その口元には・・・おお、ナムサン!メンポを装着しているではないか!「ニ、ニンジャ・・・?」ミコトは初めて遭遇した自分以外のニンジャ存在に驚く。「ドーモ、ウルフクローです」

ウルフクローと名乗ったニンジャはアイサツした。ニンジャ同士のイクサにおいて、アイサツは神性不可侵の行為とされる。古事記にも書かれている。ミコトは無意識のうちに手を合わせ、オジギをする。「ドーモ・・・・・・フレイムセイバーです」彼女は突如頭の中に浮かんだ自分のニンジャとしての名前を名乗った。

「アタシ達に何か用?」ミコトは・・・フレイムセイバーは少し強気になって訊ねる。「なに、先日はウチの若いのが世話になったようだからね。アイサツにきたのさ」ウルフクローは紳士的に答える。「若いの・・・アンタ、あいつの仲間だッての?」ミコトはノゾミを庇うようにして対峙する。ノゾミは震えている。「我々はデスクロー・ヤクザクランというヤクザでね。ニンジャにやられたと言ってたから俺が動いたんだが・・・」ウルフクローは目の前の2人を吟味する。そして、邪悪に笑い出す。

「ハッハハハハ!お前、ニンジャになったばっかりか?ンンー?」ウルフクローはフレイムセイバーを嘲笑う。彼は彼女が自分よりもカラテで劣る存在であると知るや否や、態度を変えた。「アレはアイツから襲ってきただけで、実際正当防衛なんですけど」フレイムセイバーは声を少し震わせながら言う。嫌な汗が止まらない。「知ってるさ。だがそんなもんは関係ねェよ。ニンジャのお前は俺との遊んだあとアマクダリに献上する。そしてそこで震えてるモータルのガキはウチ専用オイランだ。」

「アマ・・・クダリ?」ノゾミは聴き慣れないその単語に恐怖を覚える。「そんなこと、なんでアンタに決められなきゃならないの?」「これは強者による決定事項だ。弱者のお前らに拒否権はねえよ」ウルフクローは余裕の笑みを浮かべ、2人へと近く。「意味が分かんない。・・・ノゾミ、逃げるよ」「う、うん・・・でも、どうやって?」ミコトは帽子を脱ぎ捨てる。

「・・・こいつらを倒す!アンタはどこかに隠れてて!」フレイムセイバーはカラテを構える。その構えは素人のものである。彼女は運動は得意だが、喧嘩をしたことはない。「フン。まずはどれだけ出来るか試してやろう」ウルフクローは右手を挙げる。彼の背後で待機していた同じ顔のヤクザ6人が前に出る。それぞれドス・ダガーやチャカ・ガンを取り出し構える。

「イヤーッ!」フレイムセイバーはヤクザに向かって走り出す!それと同時に、彼女の口元を薄い赤色のメンポが覆った!「ザッケンナコラー!」ヤクザ3人による一糸乱れぬ銃撃を、フレイムセイバーは銃口から予測される弾丸の軌道を読み取り、回避する。彼女は銃弾を回避することなど初めての経験であったため、自分の反射的な行動に驚きはしたが、一瞬で気持ちを切り替え、ヤクザの1人の正面に立つ!

「イヤーッ!」「グワーッ!」フレイムセイバーは手刀でヤクザの体を斬り裂いた!ヤクザは緑色の血を噴き出しながら倒れる。「エッ?」一部始終を近くにあった土管の裏で見ていたノゾミは、眼鏡をしていないため視界がぼんやりとしていたが、その緑色の血をはっきりと見た。

「何、こいつら。人間じゃないの?」善良な女子高生の2人はヨロシサンによる悪夢のクローン技術のことを知らない!この同じ顔のヤクザはクローンヤクザである!ミコトは初めて見るクローンヤクザに一瞬怯えたが、首を思い切り振り、次のターゲットを絞る。

「ザッケンナコラー!」背後からクローンヤクザがドス・ダガーでフレイムセイバーに襲いかかる。「イヤーッ!」「グワーッ!」フレイムセイバーは回し蹴りで応戦!ドス・ダガーを落としてクローンヤクザは吹き飛ぶ!フレイムセイバーはその場にしゃがみ込み、背後からの銃撃を躱しつつドス・ダガーを拾う!

「イヤーッ!」「グワーッ!」フレイムセイバーは立ち上がると同時に近くのクローンヤクザ2体を斬る!「ザッケンナコラー!」クローンヤクザの銃撃を横にずれて躱す。しかし、銃弾が左腕を掠めた。「・・・!」ミコトは歯を食いしばって痛みに耐える。そして撃ったクローンヤクザに向かって突進し、ドス・ダガーで斬り込む!「イヤーッ!」「グワーッ!」

「ザッケンナコラー!」数メートル離れたクローンヤクザの銃撃!フレイムセーバーは回避!(・・・タイミングが分かってきた!)彼女は数度撃ち込まれたことで、チャカ・ガンの銃撃の軌道を感覚的に理解した。そして手に持っていたドス・ダガーをそのクローンヤクザに投擲!「グワーッ!」クローンヤクザ軍団半壊!

「ハァーッ!ハァーッ!」フレイムセイバーは肩で息をしながらウルフクローの方を向く。彼は腕を組みながら余裕の表情で立っていた。「ほう。初めてにしちゃあ中々やるじゃねェか」「アンタに褒められても全然嬉しくない」フレイムセイバーは意識をウルフクローに向けながら、そばに落ちていたドス・ダガーを拾い上げる。

「次はアンタだ。その気持ち悪い笑いを無くしてやる」「フフ・・・そうこなくては面白くない。それなら、もう少し舞台を盛り上げるとするか」ウルフクローは指を鳴らす。直後、「アイエエエ!」ミコトの背後から悲鳴!ミコトは振り向くいた。そこではノゾミが残りのクローンヤクザ6体に取り押さえられていた!

「ノゾミ!」ミコトはノゾミの方へと走り出す。だが、ウルフクローは彼女以上のニンジャ速度で再びミコトの前に立ち塞がる。「どけ!」フレイムセイバーは斬りかかる。ウルフクローはドス・ダガーを己の異常発達した爪で掴む。「良い顔になってきたではないか、ンン?」フレイムセイバーは手に力を込め、ドス・ダガーを押し込もうとする。「イヤーッ!」「ンアーッ!」だが、
ウルフクローはそれを弾き返す!

ウルフクローは手を振り上げながらフレイムセイバーに接近し、その手を一気に振り下ろした!「イヤーッ!」「ンアーッ!」体勢を整えようとしたフレイムセイバーの体を、ウルフクローの爪が襲いかかる!傷は浅いが、彼女の体から血がこぼれる。

「くっ・・・!」フレイムセイバーは立ち上がる。「いいぞその表情・・・俺はそういう反抗的な目をしてるやつを徹底的にいたぶるのが好きなんだ」ウルフクローは爪についた血を舐める。「ノゾミを・・・離せ!」「安心しろ。あのガキにはあまり手を出さねえよ。テメエが傷つく様を見せて、アイツがどんな表情をするかが楽しみだからなァ!」「最っ低・・・!」フレイムセイバーはドス・ダガーを握りなおし、ウルフクローに怒りの目を向ける。

「ミ、ミコト!逃げて!」ノゾミは泣きながら大声で叫ぶ。「ノゾミ!」「このままじゃ2人とも死んじゃうよ!私のことはいいからミコトは生きて!お願い!」「なっ・・・!」ミコトはノゾミの悲痛の叫びに対して、言葉が出なかった。彼女の頭は真っ白になる。

「黙れガキが!やれ!」「ザッケンナコラー!」「ンアーッ!」クローンヤクザはノゾミの頬を張る。先日のヨタモノの攻撃とは違う、モータルにとっては強烈な一撃だ。ノゾミは気を失う。「あ・・・」ミコトは自身のニューロンの糸が切れる音を聞いた。

「殺さねえって言ってるだろうが。さて、続きをやろうか・・・アン?」ウルフクローに不意に悪寒が走る。フレイムセイバーは己の体内から発せられる超自然の火に包まれている。「カトン・ジツか?」「イヤーッ!」フレイムセイバーは炎を纏ったドス・ダガーでウルフクローを強襲!ウルフクローは爪でこれを防ぐ!

「ARRRRRGH!」「クソッ、なんだコイツ・・・」ウルフクローは再び弾き返そうとしたが、予想以上の力で襲われている。そして、フレイムセイバーの超自然の炎がドス・ダガーを溶かし、それを伝ってウルフクローの爪へと炎が移る!

「グワーッ!」ウルフクローは反射的に飛び下がり、腕を振り己に移った炎を消す。彼の右手は火傷により使い物にならなくなった。「ARRRRGH!」フレイムセイバーが再び接近!「ふざけんな!イヤーッ!」「グワーッ!」フレイムセイバーの素早い右ストレートがウルフクローの顔面を捉える!その後、連続して殴り続ける!

「ふざけんな!ふざけんな!なんであの子が酷い目に合うんだよ!あの子が何をしたっていうんだよ!」ミコトはこれまで自身のニューロンの奥底に隠していた、不条理に対する怒りを爆発させていた。彼女は泣き叫びながら殴り続ける。離れたところで誰かの叫び声が聞こえるが、それが何なのかはもはや判然としない。

だが、力任せに殴り続け、大振りになった隙をウルフクローは見逃さなかった。「イヤーッ!」「ンアーッ!」ウルフクローの左爪の斬撃がミコトを襲う。彼女は体を斬られながら吹き飛ぶ。それと同時に、彼女を包んでいた超自然の炎は瞬時に消失した。「クソッ、ガキが!」ウルフクローは倒れているミコトを蹴り飛ばす。「ア・・・ア・・・」ミコトは深手を負い、立ち上がれず、防御もままならない状況であった。

「アマクダリにくれてやろうと思ったが気が変わった。テメエはここで潰す」ウルフクローはカイシャクをするべくミコトに近寄る。(ああ・・・アタシはここまでか・・・ノゾミ、ゴメンね・・・)ミコトは自分の死の運命を受け入れようとした・・・その時!


「Wasshoi!」


突如、マンホールの蓋が内側から上空へと高く蹴り飛ばされ、下水道から何者かが飛び出した!「イヤーッ!」彼は地面を蹴り、マンホールの蓋よりも高く跳躍し、空中からスリケンを投擲!スリケンはノゾミを取り囲んでいたクローンヤクザ6体の頭に突き刺さった!「「「「「「グワーッ!」」」」」」

「イヤーッ!」襲撃者はマンホールの蓋を踏み台にしてさらに跳躍!空中から飛び蹴りの動作をとり、その赤黒の色の風はウルフクローへと一気に距離をつめる!ウルフクローはニンジャ第六感により回避行動をとり、負傷した右腕のすぐ横を飛び蹴りが掠める!「グワーッ!」激しい摩擦により右腕にさらに傷!

「イヤーッ!」ニンジャはそのままバックステップで間合いをとり、一回転した後に綺麗な体勢で着地する。そして、「忍」「殺」のレリーフが刻まれた恐るべきメンポを装着した赤黒のニンジャはアイサツした。「ドーモ、ニンジャスレイヤーです」

「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。ウルフクローです」ウルフクローもアイサツする。彼は、そのアイサツから先ほど倒した女ニンジャを遥かに超える憎悪が自分に向けられていることを感じた。「ニンジャスレイヤーだと?何者だ、テメエは」ウルフクローは左爪を威圧的に向ける。「アマクダリの衛星組織が私を知らぬと?よほどの末端組織とみえる」「何だとォ?」ウルフクローは苛立ちを覚える。だが実際、デスクロー・ヤクザクランは最近興したばかりの新興クランであった。

「オヌシらの組織はすでに調べ上げている。デスクロー・ヤクザクラン。無知の市民を詐欺で騙し、借金を無理矢理作らせ、さらにはその他の違法行為を平然と行う、ヤクザの風上にも置けない外道とな」「ハッ!」ニンジャスレイヤーは続ける。「そしてアマクダリ・セクトに属している組織。奴らについて知っていることを全て洗いざらい吐いてもらう」「要するにテメエはアマクダリの敵ッてことか」「そうだ。アマクダリを滅ぼす。そしてアマクダリの犬たるオヌシも当然殺す。ニンジャ、殺すべし」

ニンジャスレイヤーはジュー・ジツを構える。ウルフクローも臨戦体勢に入る。「大口叩きやがって、このサンシタが!イヤーッ!」ウルフクローはニンジャスレイヤーに突撃し、左爪を振り下ろす!ニンジャスレイヤーは僅かに横にずれて難なく躱す。「イヤーッ!」そして瞬時に腰を沈め、ウルフクローの腹にパンチを繰り出す。ジュー・ジツ奥義、ポン・パンチだ!「グワーッ!」ウルフクローは吹き飛ぶ!そしてニンジャスレイヤーはスリケン投擲!「イヤーッ!」「グワーッ!」スリケンがウルフクローの手足にそれぞれ一つずつ突き刺さる!ワザマエ!

「何・・・だと」ウルフクローは倒れながら信じられないものを表情でニンジャスレイヤーを見る。ウルフクローはスリケンを抜き、そのまま立とうとしたが、強烈な痛みで立つことができない。ニンジャスレイヤーが放った一撃で全てが決まった。

そして、彼はふと思い出す。アマクダリの衛星組織になったあの日、かの巨大なニンジャ組織から要注意ニンジャとして教えられたネオサイタマの死神のことを。そのニンジャは赤黒のニンジャ装束で、「忍」「殺」のレリーフを刻み込んだメンポを装着している。そのニンジャの名は・・・

「ア、アイエエエエエエ!」突如、目の前の恐るべきニンジャがネオサイタマの死神であると理解したウルフクローは恐怖に怯え、後ずさる。だが、「イヤーッ!」「アバーッ!」ニンジャスレイヤーは倒れたウルフクローを逃がさないように踏みつける。

「オヌシをインタビューする。アマクダリについて知っていることを全て正直に話せば、ハイクを読む時間を与えた後に、痛みを与えずにカイシャクしてやろう」「アイエエエエ・・・」ウルフクローは失禁をした。彼の組織はアマクダリの一員ではあるが、アマクダリの情報は何一つもたらされてはいないのだ。

ウルフクローはこの状況を打破する方法を考える。そして、彼は比較的軽症な左手をポケットに入れ、中から小さな球状の物質を取り出す。当然、それを使わせるニンジャスレイヤーではない!「イヤーッ!」「グワーッ!」ニンジャスレイヤーは踏みつけたままスリケンを投げてウルフクローの左手首を攻撃する。球はそのまま地面に落ち・・・そして、偶然にも起動スイッチが地面と接触し、押されてしまったのだ!

突如、彼ら2人の周辺に強烈な光が炸裂する!「「グワーッ!」」両者の視界が瞬時に奪われる!これは用心深いウルフクローが逃走用に備えていた小型の閃光弾だ!だが、ウルフクロー自身も視界が奪われる!

ウルフクローは押さえつけられていた力が弱まったことを感じ、体を転がしながら、死神から遠ざかる。死神はしばらくは動けないはずだ。ウルフクローは這いずりながら出口に向かって必死に体を動かす。彼は勝利を確信し、笑みを浮かべる。その時だ!「イヤーッ!」「グワーッ!」

背中から強烈な一撃!ウルフクローはもはや這いずることも出来ず、その場でうつ伏せに倒れる。恐る恐る首を振りむけ、その襲撃者の正体を見る。それは赤黒のニンジャ装束・・・否、切り傷により体が赤い血で染まったミコトであった。「バカな・・・なぜまだ動けて・・・いや、なぜ俺の居場所が分かる」ミコトはニンジャスレイヤーが現れてから今まで気を失っていた。だが、閃光弾の光により意識が覚醒したのだ。そのため、光による視界へのダメージはほぼ無かった!

「イヤーッ!」「アバーッ!」再び背中へと打撃を浴びせる!今度はその拳には超自然の火を伴っており、その火は一瞬でウルフクローの全身へと燃え広がった!ゴウランガ!「アバババババババーッ!」そしてニンジャ耐久力の限界に達したウルフクローは爆発四散した!「サヨナラ!」

ウルフクローの爆発四散を見届けたミコトは口元に笑みを浮かべ、そのままうつ伏せに倒れた。その一部始終をニンジャスレイヤーは見ていた。彼は確かに閃光弾の光で視界を奪わるウカツを起こしたが、瞬時に回復し、ウルフクローをカイシャクさせる算段であった。しかし、その間をあの少女が割って入ったのだ。

そして、それを見ていたのはニンジャスレイヤーだけではなかった。ミコトのもとへと歩み寄る彼の横を1人の少女が通り抜け、手を広げて彼の前に立ち塞がった。ニンジャスレイヤーは立ち止まる。「・・・ミ、ミコトを殺さないで」ノゾミはガタガタと震えながら、勇気を振り絞って言葉を発する。

ノゾミの服や髪にはクローンヤクザの緑色の血がついている。彼女はミコトが暴走状態に陥った時から意識を取り戻しており、彼らのイクサやミコトがウルフクローを爆発四散させる場面をずっと見ていたのだ。

しばし沈黙が流れる。ニンジャスレイヤーは目の前の少女と奥で倒れている少女を見る。モータルである少女は震えてはいるが、ニンジャの少女を守ろうという強い意志を持った目をしている。ニューロンの奥底から、邪悪なニンジャソウルが少女たちを蹂躙するよう囁きかける。ニンジャスレイヤーはそれを拒む。そして、遙か遠くから接近するニンジャソウルを感じとる。

「・・・そのニンジャの少女を連れて、早々にここから離れるがいい」「・・・え?」ノゾミは不意を突かれた表情になり、ニンジャスレイヤーはその横を通り抜け、出口へと向かう。「あ、あの・・・!」「その者が邪悪なニンジャに成り果てた時、私はオヌシたちの敵として再び現れる」「・・・!」ノゾミは反射的にしゃがみこみ、ミコトの体を庇う。そして再び赤黒のニンジャの方を向くと、すでに彼はそこにはいなかった。

ノゾミは少しの間呆然としていたが、ハッとして現実に返り、ミコトを揺さぶる。「ミコト、大丈夫!?」ミコトは重症であったが、息はしていた。そして、その口が小さく開いた。「・・・うん」「ミコト!良かった・・・!」「ごめ・・・んね・・・」「ううん・・・!ミコトが生きているなら、それだけで十分だよ・・・!」ノゾミはミコトの背中に手を回し、泣きながら抱きつく。

数秒後、ミコトはノゾミの肩を借りて立ち上がる。ノゾミは必死になってミコトを支える。「ここから、逃げよう」「うん・・・」2人はヨロヨロと歩く。「家には・・・帰らない方がいいよね」「うん・・・」ノゾミは来た道を思い出しながら歩を進める。「近くの人気のない公園に隠れよう」「うん・・・」ノゾミは赤黒のニンジャを思い出す。「私、ミコトのことを守るよ。絶対に、ミコトを死なせたりはしない」「うん・・・」そこでミコトの意識は途絶えた。


数時間後、デスクロー・ヤクザクランの事務所は炎に包まれ、ネオサイタマから消滅した。炎上している事務所から赤黒い風が吹いたと、近くにいた浮浪者は発言していた。

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2人は公園で夜を明かした。翌朝、ノゾミは傷だらけのミコトが重金属酸性雨に濡れないように自分のジャケットを被せた。元々人目が少ない場所であったので、夜の間は誰からも襲われることはなかった。

「ミコト、気分はどう?」ノゾミは訊ねる。会話が出来るまでには回復しているのだ。「平気・・・」ミコトは弱々しく応える。ノゾミは少し安心すると、空腹を感じた。「何か食べ物を買ってくるね」「うん・・・」ノゾミは立ち上がる。と同時に足音が聞こえ、何者かの人影が地面に映る。

ノゾミは身構える。ミコトも立ち上がろうとしたが、ふらつき、倒れ込む。ノゾミはミコトを支える。そうしているうちに、その人物は姿を目視できるまで彼女たちに近づいた。ライダースーツを着た、日本人離れした金髪の美女であった。そのバストは豊満であり、彼女の手は袋を持っている。「・・・何か用ですか?」ノゾミは敵意を隠さず訊ねる。

「用は後で話すけど、まずはこれを食べなさい」美女は袋からスシパックを取り出し、彼女たちに手渡す。「え?」2人は目を丸くして美女を見る。「私は・・・そうね、昨日あなた達を助けたニンジャの協力者、といったところよ」「あの人の・・・」ミコトはほとんど覚えていないが、ノゾミはNRSを克服したニューロンに刻み込まれた、赤黒のニンジャを思い出す。

そして2人はスシを食べ始めた。ミコトはスシを食べることによって回復力が加速度的に速くなり、傷も癒え始めてきた。「ありがとうございます」「・・・ありがとう」2人は美女にお礼を言う。「どういたしまして。で、貴方たち、これからどうするつもり?」「これから・・・」2人は顔を見合わせる。

「彼が貴方たちを襲ったヤクザクランを壊滅させたけど、残党がいる可能性もある。もし貴方たちが希望するなら、キョートやオキナワ、岡山県へ逃がすことにも協力してあげられるわ。お金は払ってもらうけど」2人は沈黙する。そして、ミコトは口を開く。

「アタシは、逃げない。ネオサイタマで理不尽と戦い続ける。絶対にここで生き続けてやる」彼女は覚悟を決めた目を金髪の美女に向けて、決断的に答える。「でも、ノゾミはニンジャじゃないから、この子だけは・・・」そこまで言うとノゾミはミコトを遮る。「私も逃げません」「ノゾミ?」ミコトはノゾミを見る。

「本当は怖いです。だけどネオサイタマを離れても、理不尽なことが無くならないと思うんです。理不尽に振り回されるのはもうたくさん。だから、ネオサイタマで戦い続けます。彼女と一緒に」ノゾミはそう宣言した。ミコトの目に涙が浮かぶ。

「そう、分かったわ」金髪の美女は立ち上がる。「それなら、2人で頑張りなさい。私たちには敵が多いから助けてあげられることは少ないけど、貴方たちの無事を祈っているわ」美女はそう言うと公園を後にした。2人も立ち上がり、手を繋ぎ、自宅へと歩き始めた。


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ネオサイタマの一角にあるオスモウ・バーの片隅にて、ナンシー・リーとフジキド・ケンジは話し合いをしていた。「貴方がアマクダリの注意を引いてくれたおかげで、アマクダリが彼女たちに注目することはなかったわ」ナンシーは手に持っていたワイングラスを机に置く。フジキドは表情を変えずに言った。「私はただ邪悪なニンジャを殺し、アマクダリの正体を追っていただけにすぎぬ。結果的にそうなっただけだ」「ふふ、そうだったわね」

フジキドはウルフクローを爆発四散させた直後、デスクロー・ヤクザクランの事務所に立ち寄り、アマクダリの情報を聞き出そうとした。だが大した情報は得られず、そこにフジキドを追いかけてきたアマクダリのニンジャが強襲し、それとの戦闘により事務所は炎上した。アマクダリとしては、ニンジャスレイヤーが末端組織を一つ潰したという事実しか残っておらず、この事件の渦中にいた少女たちのことを一切把握していない。そのため、彼女たちの存在がアマクダリにばれることは無かった。

「彼女たちの身辺を調べてみたんだけど」ナンシーは調査記録をフジキドに手渡す。「あの子たちの両親は10年前に他界。原因は野生のバイオパンダの襲撃という不幸な事故、となっているけど、実際は少し違う」フジキドは資料を眺める。

「バイオパンダに襲われたのは事実。だけど、そのバイオパンダはヨロシサン系列のカイシャが極秘裏に育てていた強化バイオ生命体だった。それが脱走して、彼女たちを襲った」「ヨロシサンはその事実を隠したのか」「ええ」ナンシーは肯定する。

「それから10年後、今から1ヶ月ほど前。今度はモータルの子の方の叔母が事故死。この人は、かつて事故を起こしたカイシャの清掃員だった。このカイシャ、脱走事故をたびたび起こしては、本社に事故を揉み消してもらっていたみたい。それを不審に思った彼女はこっそりと内部事情を調べ、あの子たちの両親が殺された真実を知った」「それで、口封じのために殺されたと」「そうみたいね」フジキドの手に力がこもる。

「少し見ていられなかったから、お節介を焼こうとしたんだけど、フラれちゃったわ」「彼女たちにはこの事実を伝えたのか?」「いいえ、伝えていないけど・・・」ナンシーは少し考え込む。「これはジャーナリストのカンなんだけど、ニンジャではない子・・・ノゾミちゃんだったかしら。あの子はこういったことを調べる才能がある。彼女は近いうちに自力でこの真実にたどり着くわ」フジキドはナンシーを見る。辺りからは気持ちを静められる心地よいサウンドが流れている。

「真実を知ったら、あの子たちはどうするのかしら?」ナンシーが呟く。フジキドは答える。「無論、復讐に臨むだろう。たとえ相手が強大であっても」フジキドはあの時に見たニンジャの少女の怒りと、モータルの少女の強い意志を持った目を思い出す。「それなら、彼女たちを助ける?」フジキドは首を横に振る。「いや、これは彼女たちのイクサだ。助けを求められぬ限り、我々が易々と介入していいものではない」

「そうね、そうかもしれない。それに私たちと関わりを持ってしまったら、逆に彼女たちを私たちの事情に巻き込んでしまうかもしれない」ナンシーはワインを少し口にする。「・・・だが、あのニンジャの少女は非常に不安定だった。邪悪なニンジャに堕ちてしまうかどうか、監視する必要はある」ナンシーは口を綻ばせる。「監視、ね。それ以上の意味はあるのかしら?」「好きに解釈してもらってかまわぬ」「なら、そうさせてもらうわ」

少し沈黙が流れた後、ナンシーは口を開く。「だけど、2人で生き続ける限り、あの子が邪悪なニンジャになることはないと思うわ」「それもジャーナリストのカンか?」ナンシーは首を横に振り、ウインクしながら答える。「いいえ、女のカンよ」フジキドは少しだけ口を綻ばせる。「なるほど。なら、私もそれを信じさせてもらおう」フジキドとナンシーは互いのワイングラスを手に持ち、軽く乾杯した。そして、彼らは次のイクサに備えて、情報交換を行った。


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数週間後、2人の少女が草陰に隠れ、目の先にある建物をじっと眺める。「ここが例の建物・・・警備が厳重そうだね」メンポをつけた少女は言う。「うん、防犯以上に何度も起こる脱走事故防止のために、警備員を他より多く配置しているみたい。ここも崖っぷちの状態で、上から制裁が下されるのも時間の問題らしいよ」長い髪の眼鏡の少女は答える。少女の眼鏡は薄い銀色のフレームをしている。

「ミコト、いけそう?」ノゾミは訊ねる。ミコトは頷く。「うん、いつでもいいよ。何かあったらIRCで連絡する」ミコトは立ち上がった。ノゾミもそれに合わせて立ち上がる。「お父さんやお母さん、叔母さんの仇・・・今日で終わらせよう」彼女たちはニューロンの中にある、これまで受けてきた数多くの理不尽に対する怒りを感じながら、小さくも断固たる反撃を開始した。


【リトル・レジスタンス・オブ・ツー・ガールズ 終わり】

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