翼を生やそうとする少年の話

少年は空を飛びたがった。ただ、それだけだ。それも飛行機や気球に乗るのではなく、自分の翼で空を羽ばたきたかった。
それでいつも、暇さえあれば、背中に念力を送って待っていた。

けれど、なかなかその時は来なかった。どんなに強く念じても、背中から翼が生えてくることはなかった。

それでも背中に異様なエネルギーを感じることは多々あった。彼はそれを兆候だと信じていた。

少年は成長し、サンタクロースの存在を疑いだした頃も、自分の翼がいつの間にか生えることを疑わなかった。

少年は青年になり、やがて自分の翼のことを徐々に考えなくなっていった。それ以上に考えるべきことがありすぎた。背中に翼を生やす特訓も面倒になり、やがてやらなくなっていった。

ただ、青い空のもと、他に表現する術もなく、立ち尽くしていると、ふと、郷愁に胸が締め付けられる気分がしたが、どうして自分がそんな風になるのか、自分でもわからなかった。

彼は勉強し、スポーツをし、仕事に就いた。税金を払った。恋をして、結婚をした。たまに奮発して、高価な物を買ったり、高級なレストランで食事をした。

彼に子供ができた。男の子だ。彼は喜んで、毎晩、自分の子供に絵本を読んであげた。

あるとき、本に真っ青のページがでてきた。彼は本の続きを読めなくなった。じっとそのページを見つめた。

「パパ、どうしたの?」
「ここだ」
と、父は言った。

それから父は、ぼんやりして、自分の部屋に入ったきりになってしまった。仕事に行かなくなり、クビになった。妻は、仕事に行かない夫をなじったが、彼はいつも上の空だった。妻は夫と離婚した。そして息子をつれて実家に帰った。息子は泣いた。それから、父は行方がわからなくなった。

息子は成長して、サンタクロースは祖父がやっていることを見抜いた。息子の目標は、自分の父のようにはならないことだった。

息子は結婚し、やがて子供ができた。息子に絵本を読んであげた。その絵本に青い空が広がり、小さな小さな鳥が羽ばたいていた。

「これは、パパだ」
息子が叫んだ。そのまた息子が
「これは、鳥さんだよ」と言った。
「いいや、これは僕のパパだよ。ここにいた!」
父は願いを叶え、息子はそれを発見し、そのまた息子が目撃した。彼は言った。
「いいな。僕もパパのパパみたいに、お空を飛びたいな」

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