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センスがなくてもファッションを楽しむ方法

ファッションセンスに関して、私は全面的に自信がない。夫は私のファッションを見ていつもうんざりとした顔をし、出かける前に全身着替えさせられることもままあった。私が選ぶ服にもいつも文句をつけていた。「その色は他と合わせにくいと思うよ」「それで、靴はどうするの?」夫は服や靴が大好きで、家にはたくさんのそれらが壁に張り巡らせたアルミラックにお店のように並んでいる。私の服は狭いクローゼットでちんまりしている。私だって、お店のように服が並んでいれば、そこから良い組み合わせを思いつくかもしれないけど、給料と生活費のバランスはとらなければいけない。それで、夫の買い物のついでに私の服を見て、予算のなかで、夫の顔色を伺いながら、なんとなく怒られないように服を選び、自分の気に入ったものよりも夫がいいというものを選んだ。そのほうが私のセンスよりずっといいのだから。それで夫はあんまり文句を言わなくなった。

 離婚を決意して、少ない服を持って家を出た。職場はビジネスカジュアルの私服で過ごすため、厳選して持ってきた服と、新たに買い足した少しの服で着回さなければいけなかった。けれど、久しぶりに自分だけで選んで、自分の意志で買った服だったし、選んだ服だったし、決めて着た服だった。それは、本当に久しぶりの出来事だった。(結婚生活は1年だったが、その前に8年同棲していた)そうしてみて初めて、こんなにも今までびくびくして服を選んでいたのだった、と思った。そういえば昔、どうしても服を買い足さないといけないぞ、と思って夫と一緒に買い物に出かけたものの、私が欲しくて彼が気に入りそうな服がなくて、こっそり泣いたことがあった。欲しいものがわからなかった。なんでこんなにファッションって難しいの、無理だよ、あなた買ってきてよって思った。

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 一人での生活をしていくなかで、あるときファッションをほめられた。「それ、かわいいね」「似合ってるよ」と言ってもらえた。私が自分で選んだ服で、自分で考えた組み合わせで、そして自分が良いと思ったものを人から良いと思ってもらえて、すごく嬉しかった。昔、難しすぎるから私にはできない、と思っていたことを自然にやっていたのだ。いや、あの時は、自分でファッションを楽しむという発想がなくて、夫から怒られない、ちゃんとした格好をしなくちゃ、ということばかり考えていた。自分にはファッションセンスがなくて、自分の意見よりも夫の意見のほうがずっと正しいに違いないんだから、彼の喜ぶ格好をすれば間違いないんだろうと思って、自分で考えることを忘れていた。もちろん、TPOという言葉があるから、いつも自分の好きな格好ばかりするわけにもいかない。でも、自分で考えることをやめてしまっていたから、私はあんなに服を選んだり買ったり着たりすることが苦手だったのだ。

 単純なことだが、自分の気に入った服を誉めてもらったことで、私は俄然ファッションに興味が沸いてきた。もちろん、給料と生活費とのバランスはとらなければいけない(二度目)。けど、限られた予算のなかで、「あ、またあの子おんなじ服着てる」とか「あの人センスないなー」とか思われながらも、自分の納得して決めた格好で外に出るというのが、こんなに楽しいこととは思わなかった。あるとき、クローゼットのなかから服を引っ張り出して組み合わせを考えながら「あー服って楽しいな」という言葉が自然と頭に浮かんできて、自分で自分に驚いた。あんなにファッションが苦手だったのに、「楽しい」なんて思えるとは。この感覚を忘れたくないな、と思った。そして、明日も、一生懸命自分で考えて、自分でいいと思える格好で外に出よう、と思ったのだった。

芸能人じゃないんだし、みんなから憧れられる必要はないんだから、人の評価は気にせずに、自分の自己満足を追求して楽しんでしまえばいいんだ、と最近思ったというお話でした。

それでは、また明日。
明日は、ショートショートをアップする予定です。

#ファッション #センスない #楽しむ #エッセイ

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