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金曜の夜のパンと、パンを踏んだ娘のその後。

金曜の夜、うちの近くにワゴンのパン屋さんが来る。軽快なかわいい音楽がワゴンから響く。私はパンが好きだ。休日の朝に美味しいパンがあれば、その休日のクオリティがグッと上がるというもの。ただ、パン好きが高じて、金曜の夜に、他の店で買ったパンを握りしめていることが多い。それでしまった、あのワゴンのパン屋さんに行こうと思っていたのに、と思う。そんな金曜を何度も過ごし、やっと先日、金曜の夜のパン屋さんに行くことができた。

素朴な見た目のコッペパンや、クリームパン。ソーセージパン。そんなにいくつも食べ切れないと思いながらも、あれこれ買ってしまった。見た目通りのホッとする味。やっぱりパン最高だぜ。

パンを食べながら、たまに私の大好きなアンデルセンの童話を思い出す。「パンを踏んだ娘」という話しだ。

それは、高慢ちきな少女の話で、ワガママばかりの女の子が、あるとき、久しぶりに会う母親のためのパンを、自分の靴が汚れるのが嫌だからと、泥の水たまりに投げて、踏んで渡ろうとしたら、そのままパンとともに、泥の水たまりから地下世界に沈み込んで出られなくなってしまう、という話だ。少女は、お化けや怪物がいる地下世界で、身動きもとれず、パンを靴の下にくっつけたまま、ずっと過ごすしかない。怖いし暗いし、悲しい。しかも、地上で自分を非難する人たちの声が聞こえてくる。母は自分の娘の愚かさを嘆き、近隣の住民たちは、あんな罰当たりな娘、そうなって当然だ、と噂する。
少女の物語は、罰当たりな行為への教訓として、村で語り継がれ、何世代にも渡って話継がれる。それを何十年と、少女は地下世界でバケモノたちと一緒に聞いている。
最終的に、彼女は、地上の少女の涙によって救われる。それからの救われる物語が美しく、そして地下世界の描写がダークで怖くて恐ろしくて。私は、この話が大好きだ。

さて、パンを踏むのはいけないことか。自分勝手に、自分の都合で、自分のためだけに、誰からも非難されるようなことをした少女。
私は長年、彼女のことを愚かで浅はかでダメなやつ、と思っていた。けれど今は、少し違う。彼女は、自分のために行動した。明らかに非難される行為を、自分の価値観のためだけに。その行為は、道徳的に間違っているのだろう。でも、間違ったことをしたから、彼女は自分の救われる道を見つけられたのだ。愚かだと笑う人は多いだろう。そんなことしなくても、ちょっと考えれば、その行為がダメなことくらいわかるだろ、と思われるだろう。でも、彼女には、それが必要だったのだ。心を入れ替える為ではない。それだったら、地下世界に数年閉じ込められるだけでよかった。しかし、続きがあって、彼女が本当に魂が救済されるまでに至るには、やはり、パンを踏む行為が必要だったのだ。誰もパンを踏んだりしないだろう、正しい人たちは。しかし、正しさだけでは、美しさに到達できない。

パンを踏むんだ。明らかに間違っていることをしよう。自分にそれが必要ならば。
もちろん、その代償は、自分で払え。


さて、タイムラインに埋もれたであろう私のシナリオ。まだ読んでない方は、お願いです、ぜひ読んでみてください。

うそつき 夫の嘘
ここには、罪深い人たちがたくさん現れます。4部構成のまだ一つです。
本当の嘘は何か。本当のうそつきは、誰か。

感想もお待ちしてます!

#エッセイ #ネットラジオ #ラジオドラマ #シナリオ #脚本 #ひとり芝居 #うそつき

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