オオカミのダイモンが欲しい……「黄金の羅針盤」
「ロード・オブ・ザ・リング」がヒットして、ファンタジーブームになった時、「ライラの冒険/黄金の羅針盤」という児童書に出会った。
映画化されたのでご存じの方もいるかもしれない。しかし映画は第1部だけの尻切れトンボで終わってしまった。原作は3部作で「神秘の短剣」「琥珀の望遠鏡」と続編があり、文庫で全6巻になるのだ。全編とても面白く、何度か読み返している。
作者はイギリスの英文学者フィリップ・プルマンという人で、子ども向けの本のはずなのに、内容が内容なので、続編が作られなかったのも頷ける。ファンタジーという比喩表現を通して、アダムとイヴに遡る宗教観・倫理観に、疑問を投げかける物語だ。(単に興行成績が悪かっただけかもしれないけどね)
同じ地球のパラレルワールドで、ライラの住むオックスフォードは、人の魂が「ダイモン」という形を取り、動物の姿をして表面に現れている。ライラはまだ子どもなのでダイモンの形が定まらず、パンタライモンと言う名の彼女の魂は、フェレットや猫、蝶になったりする。
ライラの叔父(実は父)のアスリエル卿には、ユキヒョウが付き従っている。そしてライラのダイモンは男の子、アスリエル卿のダイモンは女性で、実際の性と逆の人格を持っている。
その他、鎧グマ、何百年も生きる魔女など、大人でもワクワクしてしまう(ワタシだけか?)キャラクターが随所に出てきて、飽きることがない。
ライラは鎧グマの王、イオレグ・バーニソンと出会う。鎧グマは自分だけの精巧な鎧を作る熟練の鍛冶職人でもある。イオレグは地上に落ちた流れ星で鎧を作った。彼らにとっては鎧がダイモンのようなものなのだ。
セラフィナ・ペカーラはライラを助ける湖の魔女の女王。魔女にもダイモンがあり、多くは鳥の姿をしている。修行を積んでダイモンを遠くに派遣し、諜報活動をさせることが出来る。
ある日ライラは、「真理計」と呼ばれる不思議な時計を渡される。それはあらゆる疑問を真理に導くヒントを与えてくれて、ライラはそのヒントを解読する術を自然と身につける。真理計の導きで冒険の旅に出るのだが、その過程で親友を亡くし、父であるアスリエル卿の計略により、パラレルワールド全体に風穴が穿たれる。いくつもの異次元の境界があやふやになり、ライラは様々な世界を行き来することになる。
第2部、「神秘の短剣」に出てくるウィルは、ワタシ達の世界であるところのオックスフォード在住の少年だった。
ウィルは様々な事情から追われる身となり、病気の母を信頼できる女性に預けると、境界が崩れたパラレルワールドの入り口を発見し、そこに逃れてライラと出会う。
チッタガーゼという、自分達の住んでいた世界とは全く違った国で、二人はおぞましく恐ろしい光景を目にする。そこでウィルは、世界に風穴を開けることの出来る「神秘の短剣」を手にする。その短剣は恐ろしい切れ味で、鎧グマの鎧さえもバターのように切り刻んでしまい、ウィル自身も小指を失ってしまう。神秘の短剣で傷を負ったものは、その守り人になるさだめがあり、ウィルは子どもながらもその使命を負うことになる。
幾つもの世界が絡み合った混沌とした状態を元に戻せるのは、黄金の羅針盤を持つライラと、神秘の短剣の守り人ウィル、そして、第3部「琥珀の望遠鏡」で、望遠鏡を作り出す科学者メアリーなのだ。メアリーは、旧約聖書で言うところの「ヘビ」の役割を果たす、と言うのだが…
児童書で、冒険ファンタジーだけど、既成概念への反逆の物語でもある。お子様が読むのはちょっと残酷な場面もあるかもしれない…でも今日びの子どもは、ゲームとかでさんざん残酷なシーンを見ているのかな…
ハリーポッターが読めるくらいのお子様なら楽勝です。興味のある大人の方もゼヒ読んでみてほしい。大人の鑑賞に堪えうる、面白いお話ですよ(*'ω'*)
最近の様々な出来事で、ふとこの物語が思い浮んで紹介したくなった。
一連のニュースで、ライラとウィルが迷い込んだ、チッタガーゼという異次元の世界に蔓延する、恐ろしい現象のことを思い出したからなのだ。
その国は子どもばかりで、不思議と大人がいない。大人は逃げるか、死んだような状態になっている。
上空に彷徨う「スペクター」と呼ばれる浮遊物が、大人だけを狙い、目に見えないやり方でそのダイモンを食い尽くしてしまう。魂を喰われた大人たちは生ける屍となってしまい、スペクターは増え続ける。しかし子どもにはなぜか、その姿は見えないし、被害もない。空に漂う悪意のヴェールのようなスペクターにはワクチンや特効薬はなく、逃れる術もない。
その「スペクター」が恐れるものが二つあった。
ウィルの短剣と、そして、映画ではニコール・キッドマンが演じていたコールター夫人である。
コールター夫人は権力者で、野心があり、もの凄い策略家、そしてウソつきである。怖いもの知らずで、ライラがそのまま大きくなったような女性なのだ。夫人がチッタガーゼを訪れると、スペクターは彼女を襲うどころか、従順に付き従うようになる。
夫人もまた、自分は被害に遭わないという根拠不明の自信があり、スペクターと自分自身に共鳴する何かを察知する。そしてこの怪しげな浮遊物を操ろうと目論む。
何か最近、これと似たような話をニュースで観たような気がするのだ…もちろん錯覚だと思うけど(;´・ω・)
そして、こういう根拠のない不確実な自信が意外と的を得ていて、どういう訳か現実になることが、ごく稀にあるような気がする。直感というのだろうか。「Don’t think! Feel!」と危機を脱しているかのようだ。
また、この物語には、様々な謎の物質が暗躍する。スペクターと、そして、ライラの世界で耳にする「ダスト」など。
ダストは、目には見えないが存在を信じられ、ライラの世界において研究されている。人が大人になった時、宇宙から降ってきてその人に注ぎ込まれ、ダイモンの姿を完成させるという。
われわれには見えないダイモンも、本当は体の中に存在し、そしてダストを受けて大人になるという設定。スペクターはダストに反応し、大人を攻撃する。ダストとは何か、というのも、物語のカギになる。
われわれ社会出身のウィルは、旅をする中で自分のダイモンと出会い、メアリーも、セラフィナ・ペカーラに、自分の中にあるダイモンを見る方法を教わったりする。
メアリーのダイモンはかわゆいキバシガラス。ヒマラヤなどの高地に住み、8000メートルの高さまで飛ぶ。
自分の魂をダイモンと呼ぶのは、マルクス・アウレリウスのストア哲学を思い起こすが、それが動物の姿で、常に自分の近くに存在し語りかけてくれるなんて、とても面白く羨ましい限りだ。
ワタシはオオカミのダイモンが欲しいと切に願う(*'ω'*)そのダイモンは男子だが紛れもなくワタシ自身で、同時にワタシの半身だ。名前をつけて世界を救う冒険の旅に出たいなあ。
(今世界を救うのは治療薬とワクチンだけどね。アビガンが効くとよいなあ)
あなただったら、自分のダイモンは、どんな動物がよいですか(*'ω'*)そして彼ら彼女らに、何て名前をつけるでしょう。ダイモンとどこへ行きたいですか。ちょっと想像してみてはいかがでしょうか(*'ω'*)
ダニエル・グレイグはアスリエル卿にピッタリ(*'ω'*)
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