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「だって、なにも知らなかったから」全否定して海外へ。出戻り茶道家の心を動かした『憧れとおもてなし』


下妻市で遠州流茶道教室 峰頂庵(ほうちょうあん)を開く富岡宗魅(とみおかそうび)さん。
茶道の道を志すまでのお話や、茶道の魅力についてお聞きしました!


ー「時を止めることを恐れてる」

ーー富岡さん、よろしくお願いします!OPEN

よろしくお願いします。OPEN

ーー先ほどお稽古の様子を拝見しましたが、見ていただけなのに緊張しちゃいました…(笑)

所作のひとつひとつを丁寧に。

今度は体験に来てよ~(笑)

ーーえ!やってみたいです!

普通のお稽古もあるけど、『五感を磨く和文化体験』っていうのもやってるんです。

ーー五感を磨く、ですか?

そうそう。現代人って五感が鈍くなってるんだよね。
目の前にあるものから何かを得て持って帰る能力が落ちちゃってる。

ーーうぅ…そう言われると私も何も考えずに過ごしてしまってるような…

普通はそうだと思うよ!でも、お茶を通じて「なんでこの掛け軸にしたのかな?」とか、「なんでこのお花にしたんだろう?」って考えてもらったりして、五感を磨く場にしてもらおうと思ってます。

ーーたしかにそうやって考えるシーンも少ないですし、現代人に不足してる時間かもしれないですね。

そこに人間力があらわれると思うんだけど、なかなか難しいよね。最近はずっと動画を見てたり、スマホを触ってたり…時を止めることを恐れてる人が多いんじゃないかな。

ーーなにもせずにいるのが怖いって気持ちは分かります…

和文化体験に来てもらった人でね、数寄屋に入ってもらった後に何もせずそっとしておくだけで泣いちゃう人がたくさんいるのよ。

ーー何もしない時間が、頭の中を整理してくれたのかなあ。

それもあると思うよ。あとは、数寄屋って無機質なものは一つもなくて、木とか藁とか全て命があったものでできてる。
そういう場所にいると落ち着くというか、結局人間って自然に立ち返るんじゃないかなって。

厳しくも優しい、柔らかな雰囲気のお教室

ー波乗りがしたかった!


ーー大自然の中で深呼吸をしたくなったり、叫びたくなったりするような感じなのかな…ますます体験したくなっちゃいました(笑)

まあでも、私も最初はよく分からなかったんだけどね(笑)

ーーそうなんですか…?富岡さんのお母さまが茶道の教室をされていて、小さいころから見ていたんですよね?

そうですね。でも興味なんて無かったし、そもそもこの家が嫌いだったのよ(笑)
考えも古臭いというか、昔っぽい感じだったから。封建的っていうか(笑)

ーーじゃあ、お茶の道に進んだのも嫌々なんですか…?

キッカケがあったんだけど…それまではお茶をやるつもりも家を継ぐつもりも無かったんです。

ーーそこまで言い切る富岡さんを動かしたキッカケ、気になります…!

私、もともと看護師をやっていたんです。水戸の看護学校に進んで、そのまま看護師として働いて。とにかく家を出たかった、下妻を出たかったのもあって(笑)

ーー看護師!知らなかった…

「皆さん母の生徒さんですから、変なことはできませんよね(笑)」

給料もいいし、やりがいのある仕事だったし、何も文句は無かったかなあ。無かったんだけど、自分の中で自分の生き方に疑問があったというか…周りに流されてばかりで自分がなんなのか分からない感じがしたんだよね。

ーーまさに自分を見失っていたわけですね。

そうね~。だからね、30歳までに何かしてやろうって思ってて、27歳の時にワーホリでオーストラリアのシドニーに行ったの。

ーーおお!また思い切りましたね!でもどうしてシドニーへ?

波乗りがしたかったから!(笑)


ーーな、波乗り…!?

ボディボードね!その当時からとにかく自然が好きで、山も海もなんでも好きだった。だからシドニーで波乗りするか、ニュージーランドで羊と戯れるかの二択だったの(笑)

ーーへえ~!着物姿の富岡さんしか見たことなかったので、ギャップがすごいです(笑)

しかも初の海外で英語も喋れないし、現地のことも何もわからないし、人脈もお金もないし…渡航前に知恵熱出したりしたね(笑)


ーそりゃ居心地も良くて(笑)


しかも、最初に行った語学学校でいきなりショックを受けたのよね。


ーーなんだろう、周りは英語ペラペラだったとか…?

それもそうなんだけど、その上で自分の国のことや家族のことを説明できる人ばっかりだったの。それも目をキラキラさせながら自慢気に胸を張ってね。
私は英語が喋れないどころか、日本のことや家族のことを説明することも出来なかったんだよね。だって何も知らなかったから。


ーーそういうことか…自分の現実を突きつけられた感…

「楽しいです」とおっしゃる生徒さんの笑顔が印象に残っています


しかもそんな人たちが憧れるのが、日本っていう国だったの。
日本の自然や文化がどれほど素晴らしいのか、どれほど素晴らしい国なのかをその人たちから教わって、ようやく知ったの。
私は青い鳥症候群*だったからさ、大して何も知らずに文句を言ってただけだった。

*青い鳥症候群:メーテルリンクの童話「青い鳥」にちなむ。現実の自分を受け入れられず、自分にはもっと力があり、もっと能力を発揮できる場所があるはずだ、という考えを捨てられずにいる人。また、理想の職場を求めて転職を繰り返す人のこと。

ーーうおー…それは堪えますね…

でしょ!?(笑) だから急いで本屋に行って日本の文化についてかかれてる本とか買ったよ。

ーー私でもそうすると思います。

あと、当時の私は着物も着れなくて…自分の国の衣装も着れないの?ってオーストラリアで笑われちゃったのよね。

ーー日本で過ごしていて着物を着れなくて笑われることって無いもんな…

そこから結局9年くらいオーストラリアにいたんだよね。手ぶらで帰るわけにはいかないって思ってたし、永住権も取って向こうで看護師もやって、結構頑張ったと思う。

ーー永住権まで!

でも、そうやって頑張れたのは、日本を好きでいてくれる人がいつでも周りにいて、支えてくれてたからなのよ。日本が好きだから、日本人のあなたも好きって。
あの人たちが憧れる日本の「おもてなし」を、その人たちなりの解釈で私に向けてくれるの。そりゃ居心地も良くてさ(笑)

ーーそうなったら日本人であることを受け入れるしかない…それだけ居心地がよかったらなかなか帰国できなそうですね。

でも父が認知症になって、絶対に看取ってあげたいと思っていたし帰国することにしたの。

ーーそうだったんですね…
帰国してすぐの時なんかやること無くて、ギター持って砂沼の湖畔で弾き語りとかして(笑)
オーストラリアで覚えた讃美歌を歌ってたんだけど、釣りしてるおじさんに「そろそろ他の歌うたえ~」とか「演歌とかねえのか?」って(笑)

ーーおじさんの距離感、いいなあ(笑)

オーストラリアでの一枚

あとは歌ってるだけで人が集まってきて、人生相談みたいになったり。面白かったなあ。

ーー砂沼湖畔でギター片手に讃美歌なんて歌ってたら、そりゃみんな気になって寄ってきますよ(笑)

尖ってたよね(笑)
話変わっちゃったけど…そんなこんなで、帰国したし母の教室を手伝いましょうってことになってね。
オーストラリアでの経験もあったし、茶道は『私に与えられた使命だな』って思ってたね。大げさだけど。

ーーこれまで関わらずにいた茶道だからこそ、運命のようなものを感じますね。

ー死ぬまで続けられる


小さいころからお茶会・着物をみてきたし、文化に触れるには一番いい環境にいたはず。
でも、魅力的に感じたことがなかったの。不思議でしょ?(笑)

それでも、やると決めてからは早かったよ~(笑) 着付けもすぐに覚えたし、お免状も頑すぐに取った。
今は母の教室も継いで、この家を守っていくつもり。

ーーオーストラリアに行ってなかったら…と考えると不思議な縁だなあ。

そうなの。でもそれが私の強みだと思ってる。一度全否定して海外に飛び出したからこそ見えることもあるんじゃないかな。

ーー語学学校でショックを受けてたあの頃の富岡さんと真逆ですね!(笑)

あとはやっぱり経験・体験しないと分からないことばっかりだよね。体験・経験を伴わないと、自分に吸収されない。
吸収されないと人に伝えられないし、覚えてないし忘れちゃう。

ーー知識として伝えることは出来ても、体験していると伝えるときの熱量や想いが全然違いますよね。

そうそう。だから日本人は日本のことを語れないんだよね。体験したことないものばっかりだもん。

緊張が伝わってくる…

ーー学校の授業で聞いたことあるけど…みたいなものばっかりだもんなあ…

あとね、お茶をやってると歴史も楽しくなってくるの。何百年前のお道具を使うこともあるし、掛け軸に書かれた禅語を知ることもできる。私も歴史に興味なんて無かったんだけど、だんだん面白くなってきた(笑)

ーー歴史と茶道に深いつながりがあるからこそ、体験に近い感覚で歴史を知ることができるのか…!

それに茶道は死ぬまで続けられるし、競争するもんじゃないから自分のペースで進められる。その間ずっと勉強できるし、精神を磨くこともできる。だからこそ自分だけの特別な場所になってくると思う。

ーー今やってて死ぬまで続けられることって何もないかも…

茶道でよく掛けられる掛け軸に『明歴々露堂々(めいれきれき ろどうどう)』って禅語があるんだけど、簡単に言うと「全てが明らかになっていて、隠しているところがない」ってことなのね。

隠し事をしてもいつかは明らかになるし、だったら素の自分でいられるほうがいいと思う。茶道はそういう場所になるんじゃないかな。

ーー素の自分でいられる特別な場所。そういう場所、あったらいいかもなあ…

ちょっと脱線するけど…雑草ってね、その土の状態によって生えてくる種類が違うんだって。その土地にあった草が勝手に生えてくるの。

何が言いたいかっていうと、『足るを知る』って言葉があるように、まずは自分の中にあるものを知ることが大切。他に必要なものがあったら、草と同じで生えてくると思う。タイミングやご縁だと思います。

ーー(富岡さんの『自分の中にあるもの』は、『茶道』や『日本人の心』で、オーストラリアの経験でそれに気が付いた、ってことかな…!)

お会いできるのもご縁だと思うので、もし気になった方は一度足を運んでみて頂きたいです。
お一人でも、大人数でも、心をこめておもてなしいたします。

ーー自分にとっての特別な場所になるかもしれない、そう思うと私もますます興味がわいてきました…!

富岡さん、ありがとうございました!

遠州流茶道教室 峰頂庵
https://houchouan.1net.jp/


取材執筆・写真:宮澤優輝
編集:纐纈翼
取材月:2022.9

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