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残り香を知る フランクフルト1987

サヌカイトとの旅には一人旅らしいちょっとした副産物的想い出がある。

「次、世界と戦うときはイタリア抜きでやろうな。」笑いながらこう言った60歳のタクシー運転手。一緒に過ごした数時間のお話。私は30歳になっていなかったから父親ぐらいなのだが。写真はMUSIKMESSEへの入り口。

サヌカイト楽器をフランクフルトで毎年2月開催される世界最大の国際楽器見本市MUSIKMESSEに出品するため、私は別便で送ったサヌカイトSOU1オクターブと2オクターブの石琴と展示用の枠を、ちょっとだけ離れた税関で受け取るつもりでタクシーに乗った。受け取ったらそのままMesse Frankfurtに搬入して準備するつもりで、タクシーの運転手には、「ちょっと待ってくれますか、受け取ったらMesse Frankfurtに行くので。」とお願いして。

フランクフルト空港

英語がロクに通じない受付で訊いて、引き渡し場所に、送付状を見せると、「大きいなあ」「これはなんだ?」「石の楽器?」ぶつぶつ言うので、私は「開けましょか?」と言ったが、「相談してくる」とどこかに行った。戻ってきたら「美術品や楽器関係の部署で話をしてきてくれ。」と言う。どこか訊いてそこへ向かう前にタクシー運転手のところに行って「ごめん、ちょっとトラブル。」彼は、「問題ない」と言ってくれたが既に40分以上待たせていた。

「変な楽器なんか持ち込まれては困る。」ドイツにとって音楽は大切な文化であり産業でもある。楽器などの輸入にも厳しさがある。たまにドイツの空港で高い楽器が没収されたというニュースを耳にすることあるくらいだから、石の楽器なんて難物だったのかもしれない。「売るのではない、展示だけして持って帰る。」というのに難しい顔をするばかり。「相談してくる。」と言って待っていると上司も来て、また一から説明させられた。すでに1時間20分経っていた。ようやく税金?を払うことで持ち込んでも良いことになった。持ち帰りの時に返してくれるという。また待つことになったからタクシーに戻り説明。運転手は笑って「良かったなあ。」と言ってくれた。

またまた、受取所に行ったらその話は伝わっていたが、いくらかは決まっていなかった。30分程待ってお金を払って受け取った。8万円くらいだったか忘れてしまったが、税関に着いてサヌカイトをタクシーに積むまで、2時間半。たらいまわしで、簡単ではなかった。ドイツ語で喋られても理解はできないが、当たり前の事なのかもしれないし、うまくいったほうなのかもしれない。運転手に申し訳ない気持ちいっぱいで、とにかくタクシーは市内へと出発。運転手と話をして、「どうしてそんなに優しく待ってくれたの?」と、返事は「日本人が好きだし、あんたも必死だったのは良く分かった。」であった。


ビジネス街

Messe Frankfurtで荷物を降ろし別れることになったが、お礼がしたかったから、「後で、晩御飯一緒に食べませんか?」と訊いた。「良いよ」というので3時間後、泊まるSteigenberger Frankfurter Hofの入り口で待ち合わせて、近くの安レストランへ、お互い雑な英語でなんとなくわかる話をしながら、ビールとソーセージとポテト。第2次世界大戦を経験している彼の言葉は、「今の幸せを感謝する。生きているだけで素晴らしい。」という事。暗い話だけではない、車やサッカーの事、日本の事など色々楽しい2時間。別れる時に彼が言ったのが冒頭の言葉。そして「もう会うことはないだろうけど幸せに。」手を振って別れたが、もちろんそれが最後。旅で優しくされると嬉しくて忘れられない。

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