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おすすめの歌集『ばんじろう』大松達知著(六花書林)
概要
歌人、大松達知(たつはる)の第六歌集。著者は、私立男子中学・高校に勤務する現役の英語教師でもある。
著者の短歌を初めて読んだのは『短歌タイムカプセル』というアンソロジーだった。そのなかに、こんな短歌があった。
誤植あり。中野駅徒歩十二年。それでいいかもしれないけれど
他にも、面白い短歌が多くて歌集を読んでみたいと思っていた。
英語教師としての視点から、詠んだ短歌も多い。ユーモアのある短歌も多く、感情の高ぶりを強く表現したような短歌は少なく淡々とした歌風であると感じる。
いくつか、短歌を紹介したい。
特に印象に残った7首
春の日の水族館の水を見るように見ている歌集の余白
「歌集の余白」を「水族館の水」に見立てているところが、新鮮で面白い。短歌は、水のなかを優雅に泳ぐ魚だったのか。
あすのぼくからの元気を借りてきてもう一杯のワイルドターキー
お金みたいに「元気」を借りるという発想が面白いと感じた。昔の俺みたいに、酔っ払って城を奪われないように気をつけてほしい。
上の子と呼ぶことのなしこの先もずっとひとりのひとりの娘
昔水槽に一匹で飼っていた熱帯魚を思い出した。「ひとりの」のリフレインが凄く効いていると感じる。
治ったらどこか行きたいところある? 訊いたとき父の目を見なかった
治る見込みがなかったのだろう。
カウンターの左の人が振り向けり声に出たのかなんとかなるっ!が
心の声が、口から無意識に出ていることは俺もたまにある。
ジャイアンツ嫌じゃないけどふんふふん巨人軍その〈軍〉が嫌だな
よく考えると、阪神軍とかヤクルト軍って言わないなあ。
一時間半かけてようやく来た生徒 遅刻だぞって言ってなんになる
温かさを感じる短歌。
まとめ
この歌集には、2017年から2022年までに発表された作品を中心に597首が収められている。気がつけば、付箋だらけとなっていた。
著者の短歌はユーモアと温かさを感じられる短歌が多くて、心からおすすめしたい歌集である。
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