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生まれて初めて歌舞伎を観た【猿若祭二月大歌舞伎「連獅子」】

20代のころ、演劇青年だったこともあって同じ舞台芸能である「歌舞伎」には人並み以上に関心を抱いていた。

ちょうど当時、野田秀樹が中村勘三郎(当時は勘九郎)と組んだ「研辰の討たれ」がすさまじく面白いと大変な評判になっていたこともあって、演劇と歌舞伎の距離がぐっと近くなった時期だったと思う。

やっぱり勘三郎がキーパーソンで、他にも串田和美と「コクーン歌舞伎」もやってたし、当時すさまじい勢いで憧れだった大人計画の松尾スズキと一緒に舞台を作ったりもしていた。そんなこんなで見たい見たいと思いながら、歌舞伎の敷居が高そうなイメージ(料金含む)と、途中から私の目指すものが演劇から映像作品に映ったこともあって、結局見ないまま年月が過ぎた。

そんな歌舞伎を、4日前に生まれて初めて観た。

きっかけは職場で歌舞伎鑑賞が趣味というか、どっぷり沼に浸かっている同僚がいたことで、たまたま話を聞いた私が人並みには歌舞伎を知っていたことから盛り上がり、じゃあ今度仕事終わりにの歌舞伎座に行きましょうとトントン拍子で話が決まった。
(ちなみにその同僚は昔はヴィジュアル系バンドのおっかけをしてたらしく、派手なメイクで非日常の世界を表現という共通点があるのがちょっと可笑しい)

奇しくも2月の歌舞伎座は十八世中村勘三郎十三回忌追善興行で、今回観る演目は中村勘九郎と次男の中村長三郎による「連獅子」。
あの大スターだった中村勘三郎が亡くなってもう13年目というのも驚きだし、亡くなった後に生まれたその孫が舞台に立っているというのも感慨深い。俺も年取るわけだよ。

当日は仕事の定時になったら、同じく誘われたもう一人の同僚を含めた3人で早足で最寄り駅に駆け込み、東銀座へ。
歌舞伎座に着いたらQRコードのチケットをタッチして入場。おお、外観と違ってハイテクだぞ歌舞伎座。

今回は初めてということもあって、4階の幕見席で鑑賞。かなり見下ろす形にはなるけれど、席も真ん中ではっきりと舞台が見渡せる。約1時間の舞台で1500円は安い。こんなチケットがあることも知らなかったよ。

いよいよ開演。「連獅子」の簡単な説明は以下の通り。

舞台は松羽目模様の背景。右近と左近の狂言師が赤白の獅子頭で舞う。彼らの舞は清涼山の獅子親子の物語を象徴。厳しい試練後、親子は共に喜びを分かち合う。次に、浄土宗と法華宗の僧侶が登場し、宗派の違いから滑稽な争いを繰り広げる。聞こえてきた不気味な獅子の咆哮に僧侶たちが恐れおののいて退場すると、今度は姿形も獅子となった狂言師たちが再び登場し、獅子に扮し、牡丹に戯れながら舞う。最終的に、獅子の精神を表現しつつ、千秋万歳を祝う壮大な舞いで締めくくる。

連獅子はなんといっても、親獅子と仔獅子を実際の親子による配役で上演されることが多い演目で、中村屋でいえば十八代目中村勘三郎と息子の中村勘九郎と中村七之助での親子三人で連獅子を演じたこともある。

さて、生で観た「連獅子」は芝居というよりは舞踊の要素が強く、初めての歌舞伎としては私にとっては非常に見やすかった。初めての歌舞伎がじっくりとした芝居だとなかなか物語の理解が追いつかないような気がしていたので、派手な動きで見せてくれる舞台に「すごい!すごい!」とシンプルに楽んであっという間に時間が過ぎた。

なにをおいても、仔獅子の中村長三郎。これがもうね、ちっちゃいの。
そのちっちゃな身体をいっぱいに使って足拍子を響かせ、長い毛を懸命にふる姿に、仔獅子の健気さが一層引き立って感動的だった。そして、その子獅子を見つめる親獅子の中村勘九郎の厳しい表情にも、その奥にある深い愛情が感じられた。

最後に、初の歌舞伎鑑賞で色々と不思議だったこと書き記す。

掛け声のおじさん(大向う)
演目の途中でたびたび「中村屋!」という掛け声がかかり、それ自体はテレビとかでよく見るやつだから(グループ魂のネタでもおなじみ笑)、生で聞けて嬉しかった。
でも、このおじさんたちは本当にただの客なのか、それともそういう係りの人なのか分かんなかった。あと、全部おじさんばっかで、女の人はいないの?と疑問も湧いた。
終演後に歌舞伎好きの同僚に聞くと、あの掛け声は「大向こう」といって、男性しかやっちゃいけないらしい。そして特定の団体に所属している必要があるそう。

拍手のタイミングがまったくわからない
掛け声と同じように、演目の最中にはたびたび拍手が湧きおこるが、そのタイミングがまったくわからない。もちろん、基本的にはもっとも盛り上がったところで湧くのだけど、どうもタイミングが私が感じるところとは毎回ずれている。おそらく、極力芝居や演奏の邪魔にならないタイミングで起こっているのだろうけど、こういうのも観劇を重ねていくうちに分かってくるものなのだろうか。

ともあれ、ようやく歌舞伎を観た。観たぞ。観たんだ。
初めてのハードルをついに超えた今、私も歌舞伎沼に浸ってしまいそうな、そんな予感がする。

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