見出し画像

まるお食文化エッセイ『ロマネ・コンティの呑み方?』

 世界最高のワインは何かと問えば、誰しもがまごうことなく『ロマネ・コンティ』と答えるであろう。ロマネ・コンティとは、ドメーヌ・ド・ラ・ロマネコンティ社(DRC)が単独所有するフランスのブルゴーニュ地方ヴォーヌ・ロマネ村にあるグラン・クリュ(特級畑)のワインである。20年くらい前には1本20万円程度で買えたものが、現在は100万円近くなっている。噂では中国の買い占めによるものらしい。私は今までロマネ・コンティを新酒から古酒まで何本か呑んでいるが、初めての出会いは忘れられずに鮮明に覚えている。

 私が東京のホテルを退職し、名古屋に強制送還させられて間もなく、お店に一本の電話がかかってきた。当時バブルの余韻よろしく頻繁に京都の舞妓さんとお座敷遊びをするくらい血気盛んな某大手建設会社の支店長さんからであった。

「まるおくん、ロマネ・コンティを持ち込みたいのだが、開けてくれるかな?」

もちろん即座にOKしたものの、実はそれまでロマネ・コンティを扱ったことがなかった。提供温度帯やグラスの選定はわかるが、あらかじめ抜栓したほうがいいのか?デキャンタージュは必要なのか?考えあぐねていた。

 結局私は東京のある場所に電話した。

ホテル「ホテルオークラでございます」
まるお「あ~、三菱商事の者だけど、レストランのソムリエに代わってくれる?」
ホテル「いつもありがとうございます!少々お待ちくださいませ」
ソムリエ「お電話変わりました。レストランのソムリエでございます」
まるお「あ~、三菱商事の者だけど、ロマネ・コンティをもらったんだけど、どうやって呑んだらいいの?抜栓やデキャンタージュは必要?」

 といった感じで、商社マンの間違ったイメージで少々高飛車な態度で質問してみたところ次のように答えてくれた。

『ロマネ・コンティは、一生に一度呑めるかどうかという偉大なワインでございます。前もって抜栓したりデキャンタージュするよりも、皆さんがお集まりになったときに抜栓して、大ぶりのワイングラスでロマネ・コンティが若くフレッシュな状態から時間が経ち空気に触れて熟成していくまでをゆっくり楽しまれたらいかがでしょうか?』

 なるほどロマネ・コンティの『ピチピチギャル状態』から『ムチムチ熟女』、はたまた『ヨボヨボお婆さん』になるまでを味わえということか……(この話を講座でするとどんだけ気を使ってもセクハラになる)。

 さて実際ロマネ・コンティというのは一体どういう味なのか。価格に見合うほどうまいのか?この時はリリースしてすぐの若いロマネ・コンティであったので、黒いベリー系(ブルーベリーやブラックベリー)やプラムのような濃さとスパイシーさを感じた。しかし、今まで何本か呑んできた私の正直な感想は、『ロマネ・コンティは、パッとしないワイン』なのである。初めてロマネ・コンティを呑んだ人は、ほぼ100%落胆すると言われるのは実はこういうところにある。ワインの美味しさは、そのワインの突出した個性により独特の素晴らしさを感じるが、ロマネ・コンティはそういう理論を超越したものなのだ。ロマネ・コンティの味はいつも『球』に例えられる。尖ったところがないまん丸の球体に例えられるのである。誤解を恐れずにいえば個性がないのがロマネ・コンティの個性なのである。また、これは私見であるが、ロマネ・コンティは決して長期熟成型ではない。以外に早く呑み頃がやってくる。特にオフヴィンテージ(できの良くない年)は熟成が早いので、少し古めの古酒を呑むと呑み頃が過ぎてしまっていて、余計に美味しく感じられない。呑み頃と思われるヴィンテージよりも、若いものをゆっくり楽しんだほうがよい。ギャルから老婆まで……。

 お金と機会があれば一生に一度はロマネ・コンティを呑んでいただきたいが、私に同額のお金があるとしたら、ロマネコンティ社が造る白ワイン『モンラッシェ』を呑むであろう。あれは何度呑んでも美味い。

まるお著『名誉唎酒師のばかやろう!』

直筆サイン入りで販売中

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?