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ローカル局における新・認定放送持株会社(放送業界DX)のススメ

2020年7月22日、NHK放送文化研究所のブログ「文研ブログ」に、同所メディア研究部の村上圭子氏の署名で下記の記事がアップされました。

序段部分はコロナ禍に関するメディアの接触度合いを述べていますが、そのあとに「無料広告型ビジネスモデルの課題が浮き彫りに」と続きます。

村上氏は同ブログ上において、

メディアとして地域に向き合い、視聴者の期待にも応える努力を続け、視聴率も上がっていたにもかかわらず、なぜ局の営業収入は減り続けているのでしょうか。それは、地上波民放が、視聴者と広告主の二面市場によって成り立つビジネスモデル、言い換えれば、広告つきで視聴者に無料でサービスを提供する「無料広告型」であることに起因しています。日本経済の景気の不透明感が増し、広告を出稿する多くの企業が“ない袖は振れない”となって、局の努力や成果が営業収入になかなか反映されないのです。逆にこのビジネスモデル、景気が良かった時には、仮に局が努力を怠っても、視聴率が高くなくても、局の営業収入が担保される仕組みになっていたとも言えるでしょう。つまり、地上波民放のビジネスモデルは、日本経済や企業が成長し続け、人々の消費も拡大し続けることを前提に設計・運営されてきたと言っても過言ではないのです。

と述べておられます。放送業界の長年のビジネスモデルが経済成長の賜物の結果であり、その経済成長が鈍化したことでビジネスモデルも限界にきていることを再認識する部分です。

加えて村上氏は、企業の広告出稿先が放送からインターネットへシフトしている現状に危機感を持っています。

コロナ禍以前から指摘されていたのは、企業のインターネットへの広告のシフトです。3月に電通が発行した「2019年 日本の広告費6)」で、インターネット広告がテレビメディア広告費(地上波+衛星)を抜いたと報じられたことは記憶に新しいところです。これまでは、たくさんの視聴者を集めるテレビに広告を出せば多数の購買につながるとしてきたけれど、これからはユーザーの数は少なくてもその属性や行動を把握してターゲットを絞り訴求できるネットに広告を出す方が、費用対効果が高い、少なくともデータで把握できる点を大事にする企業が増えてきています。

これは、私のnoteでも取り上げたこともあるので、よろしければこちらもご一読ください。

民放ローカル局(以下、ローカル局)の経営基盤をどう維持・強化していくか

村上氏は上記テーマについて「3つの違和感」をあげられています。

1点目は、コロナ禍の影響について記載されなかったということ

2点目は、ローカル局の経営基盤強化を考えていくには、取りまとめにあげられた要素では不十分ではないかということ

3点目は、地域情報の確保について、長期的な視点で踏み込んだ議論がなされなかったこと

上記について2点目以降の記述に強い興味を持ちました。
村上氏は、経営基盤強化策として挙げられている内容の大半が「放送外収入の取り組み」であったことがもっとも大きな違和感であると述べられています。

なぜなら、ローカル局の収入の9割程度がいまだに「放送による営業収入」で、そこからの脱却は以前より指摘されているにも関わらず、事業の柱として成長するレベルまでには至っておらず、取り組み自体が暗中模索状態になっているからです。

村上氏は期待できる点として

期待すべき点としては、取りまとめで「環境整備のために取り組むべき事項」として掲げられた4項目のうち「インターネット等の活用の推進について」です。特に、ここ数年懸案とされてきた同時配信に関する著作権法改正については機が熟してきたとみられていますので、実現に向けて総務省のイニシアチブが求められています。ただ、同時配信をどうマネタイズにつなげていくかは、今後の局や業界の取り組み次第。道のりはまだまだでしょう。

と述べられていますが、そもそも無料広告放送型ビジネスモデルだった民間放送事業しか知らない方々が、インターネット利活用のマネタイズという真逆のビジネスですぐすぐ成果を挙げられるわけがないと思ってます。

東京や大阪、名古屋、福岡などの大都市圏なら、ブレーンを集めて実施することはできるでしょう。しかし、今からそれを行ったところで結果が出るのは早くて3年後というところではないでしょうか。

だからこそ私は2010年頃から放送番組のインターネットの利活用を放送業界の方々にお話してきたのですが、全く相手にされなかったツケがここに出てきてるなと悲しくなります。

村上氏はこの部分について以下のように考察されています。

放送外収入と営業収入については、既存の局の姿を維持しながらどう経営基盤強化を考えるか、という視点です。しかし、長期を見据えると、企業や業界としての更なる大改革が避けられないのは自明の理になってきています。その際の改革としては例えば、ハード・ソフト分離という抜本的な業態の変更や、資本の移動を伴うもの、具体的にはキー局の認定放送持株会社下での子会社化や、地元企業等との合併、局同士の統合や再編等々です。そこには制度的に現行法下で可能なものもあれば、「マスメディア集中排除原則(放送法第93条)」の緩和や「特定地上基幹放送普及計画(同第91条)」と「基幹放送用周波数使用計画(電波法第7条)」の見直しを行わなければできないものもあります。分科会では構成員から、「都道府県ごとに人口等が違っていることから、放送事業者が経営基盤を都道府県に依拠することは、小さな県では、難しい部分があるので、この点については議論したほうがよいのではないか」「現行の県域免許制度や系列局によるネット報道といった仕組みは、やや古くなっている気がするので、少し考える必要があるのではないか」といった制度改正を視野に入れた意見が提起されました。しかし、会議を傍聴していた私の印象では、こうした議論は今回、意識的に見送られたのではないかと感じています。それは、総務省がこの分科会に臨むスタンスとして、事業者の要望がない限り、制度改正に関わる政策議論を行うことはしないと表明していたからです。ちなみに分科会では今回、事業者からこうした提起は一切ありませんでした。

かなり直球で突っ込んできた感を受けますが、自分も同じような考えを持っております。

まず、そもそも「今の認定放送持株会社の存在」自体が、放送事業を硬直化させていると考えています。その答えは、認定放送持株会社はその資産的規模感からキー局と準キー(基幹局)でしかありえないことと、系列を主軸とした資本ありきで物事が考えられていることにあります。

これは、従来通りの放送事業のスタイルを無理やり今風に置き換え、なおかつ、キー局と準キー局が「出資」という形で系列内外のローカル局の株式を保有し、自社のコントロール下で影響を与えようとしていると言えるのではないでしょうか。

キー局とローカル局の関係とは、キー局側は国内に番組供給ネットワークを展開し、広告媒体力を高め、地方で起きた事件や事故・災害などの報道をローカル局の協力を以って速やかに行えるメリットがあり、ローカル局は東京の番組を受信することで広告費の一部を収益としてあげることができ(ネットワーク分配金)、またエリア内の情報を発信する役割を担ってきたものと考えています。

しかし、今の時代、BS(放送衛星)/CS(通信衛星)の上に、インターネットが乗っかってきている以上、ローカル局が東京発の情報の受け皿になる役割は低減していると考えざるをえません。またネットワーク分配金の金額も減り、それがローカル局の経営に与える影響も大きいとも聞いています。

結果、通常の放送事業の拡充は望めず「放送外収益の強化」みたいな話になっていると思うのですが、今のところそれでうまく行っているのは、金を産む資産を持つ認定放送持株会社だけで、他のところでうまく行っている話はあまり聞きません。

ただ、宮崎放送の「トレードメディアジャパン」、そしてテレビ長崎の「SAIKOH」など、ローカルで注視すべき動きは出てきています。

ローカル局の生きる道ー放送局DXの必要性ー

村上氏の3つ目の違和感にある「地域情報の確保について、長期的な視点で踏み込んだ議論がなされなかったこと」については、私の持論とも言える放送局DX(デジタルトランスメーション)が1つの解になるのではないかと考えています。

そのためにはまず、「ローカル局はなんのために存在するのか」を突き詰めることが大事でしょう。

「東京の情報を受け皿として、エリア内の情報も発信する」というローカル局の役割においては、東京の情報の受け皿機能は、現在ではほぼなくなったと認識した上で、エリア内の情報発信の強化となると、エリア内に都市型CATVがあるところはコミュニティチャンネルとかぶります。

しかし、エリア内における「うちの情報を取り上げて欲しい」「放送番組に出たい」「今、こんなことが起きて助けが必要」などの要望を汲み取るのもローカル局の大事な使命です。

となった場合、ローカル局にとってもっとも大事なことは「エリア内のメディア接触者(視聴者・リスナー)が自分たちのメディアと認識し、満足する放送内容を提供できるかどうか」に絞られるでしょう。

従来の放送事業の場合、それが「キー局系列」に依存するものがほとんどでだったように思えます。しかしこれから先は、考え方を真逆に切り替える時です。

私は、今後のローカル局は経営(支配)と放送局の編成・制作(運営)方針は切り離すべきだと考えています。

すでにラジオ局では閉局するところが起きていますが、今後、テレビも含めたローカル局も倒れるところが出てくると思われます。ローカル局が倒れるとその当該局の放送エリア内の住民は、放送における1つの選択肢を失います。それが地方にとっては「自分たちのメディア」が減る現実であり、マイナスとしか思えません。

よって私の考えは、株式支配関係やキー局云々ではなく、ローカルベースの放送エリア単位での認定放送持株会社化が急務だと考えています。

総務省の資料によれば、現在の認定放送持株会社は、

・テレビ1局及びコミュニテイ放送を除くラジオ放送4局
・テレビ1局及びコミュニティ放送1局
※ラジオ放送とコミュニティ放送の兼営・支配は不可。
※同一放送対象地域における、テレビ・ラジオ・新聞の兼営・支配(いわゆる三事業支配)は不可。

上記の定義での支配を認められています。
しかし最下段の「同一放送対象地域における、テレビ・ラジオ・新聞の兼営・支配(いわゆる三事業支配)は不可」がローカルにとっては足かせになると考えています。

なぜなら、人口減少社会を迎え、放送エリア内の人口や世帯が減っていく中、早晩、無料広告放送ビジネスモデルは行き詰まるからです。その果てが閉局であるなら、閉局を止めるために経営の一体化・共有化は必須ではないでしょうか。

自分は、同一放送エリア内のラ・テ・ローカル局(CATV含む)を複数傘下に持つ認定放送持株会社が必要だと考えております。ただし、その場合、放送局単位では編成・制作の自主性は担保されることが絶対条件です。その条件下であれば、ローカルでも経営が安定した状態で複数のメディアを維持できます。

加えて、1つの認定放送持株会社の傘下に複数の放送局がぶら下がることで、デジタル部門を1つに統合させ、テレビ、ラジオなどのメディア特性を生かした放送番組のデジタル展開を加速させ、場合によっては新しい広告商品を作り出すことも不可能ではなくなります。

一方で、同じ持株会社下では「競争が働かなくなる」という意見も出てくると思います。しかし前述の通り、「放送局単位で編成・制作の自主性の担保」がなされるということは、放送局単位での競争は残ります。むしろ、売上/利益などの差がない分、純粋に「視聴率」「聴取率」「ネット上でのメディア接触率」などの競争が激化すると私は見ています。そちらの方がよほど放送局として健全だと思うのです。

同一の放送エリア内で、テレビ、ラジオ、CATV、コミュニティ放送などがしのぎを削って成り立つのは、経済が右肩上がりで成長している時で、経済活動が鈍化もしくは低下した場合、余裕がなくなり、自分たちが生き残るためにあらゆる手段を使っても相手を蹴落とすという仁義なき戦いがおきます。そうなるといずれ体力がないところは倒れるしかなくなる。しかしそれで不幸になるのはその放送エリアの住民です。

だからこそメディア維持に絶対必要な「経営の安定」を図り、放送局単位では純粋に番組視聴率・聴取率やインターネット利活用の取り組み・施策等で競争を促す。従来の放送事業はこの先間違いなくシュリンクしますが、インターネットの可能性はまだまだあります。そこを併せ持ち、放送エリアの住民の活性化に寄与する。それこそが放送エリアの住民の利益になることにではないでしょうか。

自分は、これこそがローカル局のDX(デジタルトランスメーション)だと考えています。



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