意外に役立つ(かもしれない)謝辞の文末表現
世間が大型連休だろうが夏休みだろうが、そんなものどこ吹く風と、数か月間自室にこもりコツコツと進めてきた翻訳作業。その最後の1行を万感の思いで訳し終え、やったぜ、これでしばらくは自由の身だ!と喜びを爆発させた拍子に、原書のページがはらりとめくれ、次の文字列が目に入ってくる。
Acknowledgements——つまり「謝辞」。
この瞬間に、気を失いかけてキーボードにつっぷした経験のある翻訳者はかなりの数にのぼるはずです。
■無益なことをやるときは、すばらしくやること
謝辞がまだ残っていたことくらいで、なぜそんなにショックを受けるのか?と疑問をおもちの方のために説明しておくと、翻訳者にとって謝辞の翻訳とは、
・ようやく登り終えた山頂に待ちかまえていた長い石段
・一日仕事を何とか退勤時間ギリギリに終わらせた瞬間にふられた面倒な雑務
・宴会で散々食べたあとに遅れて出てきた〆のチャーハン
とまあ、だいたいこんな位置づけなわけです。
謝辞というのは、本の内容にほぼ関係がなく、もちろん売れ行きにも一切貢献しません。ある意味、無益。でもその一方で、著者本人にとっては大切かもしれないし、適当に訳すのも翻訳者としてのモラルが許さない。
だったら文句を言わずさっさと訳しなさい、と思われるかもしれませんが、冒頭にも書いたとおり、謝辞に遭遇した時点で翻訳者は数か月、ことによっては数年の過酷なレースを戦っており、すでに疲労の極致にある。普通であればたやすく登れる石段も、半日かけて山を登ってきた足には辛いのでございます。
そんな翻訳者の皆さんの疲れた体を少しでも軽くすべく、今回は、そのときになると意外に思い浮かばない謝辞の文末表現を集めてみました。もちろん原書に合わせて、たとえば「感謝する」だけを繰り返してもよいのですが、せっかく最後の力を振り絞って訳すわけですから、少しくらいは工夫もしたい。ポール・ヴァレリー先生も、「無益なことをやるときは、すばらしくやること」と仰っていたじゃないですか。
というわけで、これまで私がコレクションしてきた文末表現をシェアします。
あんちょことしてご活用ください。
■謝辞の文末表現あれこれ
西尾氏に感謝する。
西尾氏に深く感謝する。
西尾氏に厚く感謝する。
西尾氏に改めて感謝する。
西尾氏に謹んで感謝する次第である。
西尾氏に感謝したい。
西尾氏に感謝いたします。
西尾氏に感謝/お礼(を)申し上げる。
西尾氏に感謝/お礼を申し上げておきたい。
西尾氏に感謝の意を表したい。
西尾氏に特別な謝意を表したい。
西尾氏に感謝/お礼を述べたい。
西尾氏に感謝/お礼を伝えたい。
西尾氏に感謝の気持ちを伝えたい。
西尾氏に感謝の言葉を贈りたい。
西尾氏には感謝の言葉もない。
西尾氏に感謝を捧げたい。
西尾氏に感謝を捧げたいと思う。
西尾氏に深謝したい。
西尾氏、上原氏……。記して感謝いたします。
西尾氏、上原氏……。名前を挙げて感謝の意を表したい。
西尾氏に海よりも深い感謝を。
西尾氏、ありがとう!
以上です。
最後までお読みいただいた皆様に海よりも深い感謝を。ありがとう!