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地震・風水害の研究はレジリエントな社会を実現するか

レジリエンス(Resilience)という言葉を聞いたことがあるでしょうか。辞書的には回復力、反発力と訳される英語です。何か問題が発生した際に、そこから復活し、現状に戻したりそれ以上の状態にする弾力のようなイメージです。この言葉、災害対策の文脈では”強靭さ”を目指す標語として用いられます。今回は、こうしたレジリエントな社会の実現について、地震・風水害の国内研究を使った概念マップから考えていきます。

地震・風水害に関する研究(1991年〜2020年、約7千件)

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対象データは、科学研究費助成事業データベースから研究課題に「地震、震災、災害、台風、水害、洪水、豪雨、津波、防災」を含む研究を30年分を取得したものです。それを自前のプログラムにかけて生成したのが上図の概念マップで、画像をクリックすると自由にブラウジングできるウェブマップにリンクしますので、あわせてご覧ください。

全体像:構造、観測とモデリング、そして社会復興

上部からみていくと、まず地震波・震源の観測に関する研究エリアと建物構造のエリア(左上側)が一帯の連なりとなっています。そして中央部付近では「津波・堆積」とラベリングされた箇所で密度が高くなっており、ここには例えば地質痕跡から津波等の歴史を推定するといった研究があります。そこからマップ左側にいくと洪水や豪雨災害の観測・モデリングにかかる研究箇所へと繋がります。

マップの中央部はぽっかりとスペースが空いたような構図になっており、この少し下側には衛星画像など離れた場所から取得した情報で観測・予測を行うリモートセンシングの技術をはじめ、情報技術の研究エリアが薄く広がっています。

そしてマップ下部は震災からの社会復興といった社会科学をテーマとする研究エリアが広がっていて、ここは密度・広さともに大きく、過去30年間における災害研究の中でも特に重点が置かれていたと考えられます。

いま注目したい技術観点はリモートセンシング✖️AI

前述のマップ中央部のぽっかりスペースが空いたようなエリア、こうしたエリア周辺は研究数の密度は低いもののユニークな観点の研究の種が見つかったりします。個人的に興味深い研究をウェブマップで探索すると、合成開口レーダ(SAR)による衛星画像を使って「災害直後の画像から被害把握を可能にする画像解析技術」の研究や、「土砂災害情報の”空振り率”を低減するための研究」といったものなどがありました。

それぞれ精度面や技術的制限の課題があるようですが、”災害直後に被害状況を把握して適切な初動に繋げる”、あるいは”災害予測の精度を高める”といった観点で、リモートセンシング✖️機械学習・深層学習というのはレジリエントな社会の実現のためにとても有望なテーマだと感じました。人間が気づきにくいちょっとした変化を捉えるのが得意なAI技術です。もしかすると、衛星画像だけでなく宇宙線によるリモートセンシングなどでこれまでに見えなかった災害の兆候を見つけるなんてことも考えられますね。

最近の研究は、東日本大震災からの社会復興が主題

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2017年以降に開始された直近の研究に絞って密度を見てみると、メインとなっているのはどうやら大震災・復興・調査といったワードからなるエリアのようです。2011年の東日本大震災からの復興状況の調査などが主な研究テーマになっていますが、災害支援のあり方の評価など、発生から10年ほど経過したからこそ見えてくるものがあるのかもしれませんね。

気になった研究としては、当該エリアの右側には災害後・避難時の血栓症による二次的健康被害が語られていて、例としてこの研究(リンク参照)ではこうした二次災害を防ぐための指針を作成する意義が主張されています。このように、災害後の避難生活における健康の維持といった観点、つまりハコモノとしての復興だけでなく人々が災害で受けた健康状態の変化を回復させるため研究も進んでいるようです。

観測・構造系の研究は下火なのか?

直近の傾向として、社会科学系の研究が盛り上がっている一方で、観測や構造系の研究エリアで活発な動きが見られないのは気になるところです。この点は精査が必要ですが、一つの仮説として構造系の研究は学術的な研究・実験の段階はピークが過ぎて、企業による技術開発と社会実装にシフトしたという可能性が考えられます。

まとめ:災害の事前事後まで幅広くカバーする研究成果

結果を総合すると、「過去の災害情報を知る」、「災害を予測する」、「被害を防ぐ・緩和する」、「被災状況を把握する」、「初動対応を計画・実行する」、「二次災害に対応する」、「社会復興を行う」、「その結果を評価する」、という一連のフェーズがあり、それぞれの観点で研究が蓄積されてきたことが見えてきました。その中でも特に、リモートセンシングをはじめとする情報技術過去の災害データの蓄積を用いて、災害の兆候を事前に検知したり事後対応を迅速に支援したりといった研究は個人的に注目して応援していきたいところです。

この記事を公開した1月17日は、阪神淡路大震災が発生した日となります。あれから25年以上の月日が経ちましたが、その間の研究の積み重ねを振り返る意味も込めて今回のマップを眺めてみました。一部の分野は研究・実験という段階を過ぎたのかもしれないし、一方で新しい技術との融合が期待される分野もみえてきました。災害の事前・事後を含めてこれだけ幅広いテーマをカバーしていることは、レジリエントな社会づくりという観点でとても有用だと思います。これらの研究成果が、実社会においてうまく活用されることを期待していきたいですね。


出典・免責事項

当記事の情報は、KAKEN:科学研究費助成事業データベース(国立情報学研究所)( https://kaken.nii.ac.jp/ )をもとに筆者が独自に加工し、考察した内容となります。正しく公正な情報を提供するように努めてはおりますが、必ずしも正確性を保証するものではありません。

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