千葉県柏市でPLATEAU使ってみた
私の住んでいる千葉県柏市(チーバくんの鼻あたり)では、3D都市モデルPLATEAUのデータを構築・公開しています。今回はそのデータを使ってみて見えてきたことを書いてみます。
PLATEAUって何?
国土交通省が主導する3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化プロジェクト(参照リンク)です。都市の3Dデータを作って公開してくれています。
3D都市モデルって何に使うの?
建物の日照状況をシミュレートしたり、メタバースで現実の都市空間を再現したり、色々なことに使えますが、明確に用途が定められているわけではありません。
私の場合は「柏市の都市計画などがわかるマップ(外部リンク)」に活用しました。下図のように、都市計画の用途地域図に3D建物モデルを乗せることで、用途指定と実際の建物の関係性や都市構造を俯瞰的に見ることができます。
3D建物モデルと用途地域図で都市の構図を俯瞰する
この図からどんなことが見えてくるか、少し補足します。
下図1に赤いエリアがありますが、これは「商業地域」なので高さのある商業施設が集積しています。2の青色のエリアは「工業専用地域」なので敷地面積の広い工場や物流施設が多いです。また、3の緑色のエリアは「低層住居専用地域」なので綺麗な戸建住宅の街区が形成されています。
こんな感じで、都市計画のゾーニングに沿って実際の街並みが形成されていることがわかります。
ハザードマップを重ねてみる
このウェブ地図を公開したところ、市民の方から「ハザードマップを重ねてみたい」とご意見をいただいたので、洪水浸水想定区域のデータを重ねました。すると、上の図で3のエリア(戸建住宅の街区)がハザードマップの危険区域と重なる結果に・・
ということは、この住宅地は水害のリスクがとても高いのでしょうか?
実は、そうとも言えない事実が見えてきました。
実際に水害リスクの高い場所はどこか?
柏市では、1990年以降に水害報告があった場所の大まかな住所をオープンデータとして公開しています。これを地図上にプロットしてみました。
赤色がハザードマップの洪水浸水想定区域、青色が過去に水害が報告された場所です。
結果は、洪水浸水想定区域とは異なるエリアに実際の水害記録が集中していることがわかります。河川からの洪水ではなく豪雨災害により道路や家屋が水没する、いわゆる内水の被害と考えられます。
市中央・南部の戸建住宅街に関する仮説
もう少し理解を深めるために、水害報告の箇所を用途地域の色分け図と重ねてみます。(色が重なって視認性が下がるので、同じ図郭で用途地域図なしの絵も下に併記しておきます)
こうしてみると、過去に水害報告が多い場所は市の中央〜南部の第一種低層住居専用地域と重なっている傾向にあります。
さらに少し拡大して土地の起伏がわかる陰影起伏図を重ねてみたところ、これらの場所は概ね低地の窪みに沿っていることもわかりました。
ここから得られる仮説として、雨水が流れ込みやすい立地に低層住居専用地域があり、そこの雨水処理インフラが十分でなかったために浸水被害が生じたと推察できます。
まとめると、「柏市は河川洪水の対策はうまくいっているが、中央・南部の戸建エリアの一部は内水リスクが高く、豪雨時の対策が課題である」と考えられます。ただし下水道のインフラ整備はコストと時間がかかるので、内水リスクが高いとわかっていれば止水板などの個別対策のほうが効果的かもしれません。
3D都市モデルの効果
今回のケースでは、複数の公開データを重ね合わせながら都市の構図を見たり水害リスクの高い箇所を分析しました。
水害の分析に3Dモデルは必須じゃないかもしれませんが、実際の建物がどのように建っているかを視覚的に伝えることで「ここは綺麗な住宅街区だな」とか「ここは気をつけたほうが良さそうだ」とかを現実感を持って認識できるようになったと思います。
地図上に3D都市モデルがあることでリアリティと説得力が増し、そこから一歩踏み込んだ仮説提唱や議論ができるので、今後もうまく活用していきたいと思います。
ウェブ地図はこちらからご覧ください。
https://kashiwa.co-place.com/cityplan/
追記:使用した技術とデータ
(2022.10.26追記)技術系の方向けに、今回のウェブ地図の構築に使用した技術構成やオープンデータについて説明します。ウェブ地図のコード自体はこちらのGithubで公開しています。
3D都市モデルPLATEAUの柏市データ(2020年度版)をG空間情報センターからダウンロードし、建物データ(File Geodatabase形式)、用途地域図などの地理情報をQGISで読み込み、内容確認後にGeoJSON形式に変換。
建物データはtippecanoeにてGeoJSON形式からベクトルタイル形式に変換。(タイル化することによりデータサイズの大きなファイルをウェブ地図上でスムーズに読み込むことが可能になる)
MapLibre GL JSを利用して地理情報をウェブ地図化。ベースマップにはOpenStreetMapのベクトルタイルを利用。
ハザードマップの洪水浸水想定区域をハザードマップポータルサイトから、土地陰影起伏図を地理院タイルからそれぞれラスタータイル形式でウェブ地図に読み込む。
柏市の人口、都市計画情報(地区計画など)、水害履歴は柏市ウェブサイトで公開されている情報を取得してデータを整形。このうち、水害履歴のオープンデータは位置情報が住所表記のため、東京大学空間情報科学研究センターのCSVアドレスマッチングサービスを利用して座標値を付与した。
上記の地理情報をウェブ地図に統合して、見た目や機能をデザインした。水害履歴データは該当住所の代表地点でプロットしているため、そのまま点データで示すと誤解が生じることから、水玉模様のヒートマップ状で表示する仕様にした。
MapLibreでは標高データをTerrainRGB形式で読み込むことで地図表面に標高に応じた凹凸をつけることが可能なため、標高モデル(DEM)データを基盤地図情報ダウンロードサービスから取得し、QGISで必要部分をマージした後にこちらを参考にしてTerrainRGBのラスタタイル形式に変換した。ただし、動作の安定性を確保するためこの機能はスクリプト内でコメントアウトしている。
以上です。
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