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【トーシツ6】生きるということ(小説風)

 ついに連載最後の記事となりましたが,今回は小説風に書いてみようかと考えます.日常でトーシツ(統合失調症)を患っている人がどのように物事を感じて考えて暮らしてるのかというのがお伝えできれば幸いです.なお,これは私の場合であり,トーシツを患っている人によって区々だとは考えますが,共通点はあるかとは思われますのでご理解ください.

 とあるスーパーに勤める私は毎朝7:30から主に店内の清掃を請け負っている.出勤して最初にすることは,前日までに干していたモップを回収し,タイムカードを切り,掃除機の電源を確認することだ.
 ピッ・・・,タイムカードを切って所定の位置に置いてある掃除機の電源が点くか確認をする.チッ・・・,電源がまともに入らねぇ.昨日の担当者が充電器を新しいものに変えていないことに気づく.古い充電器を取り出しセットしてから,店内の清掃に入る.
 途中で,店員さんらとすれ違う.「おはようございます」と挨拶をすれば大方の人らが挨拶を返してくれるが,なにせ請負で入っている別の会社の人間だ.向こうから挨拶されることなんてのは圧倒的に少なかった.ある女性店員とすれ違う時に鼻で笑われたような気がした.そういえば,昨日寝る前にすがたの見えぬ年配の女性店員の声で,

 〈どうやったらあんな化け物に育つんだろうね?親の顔がみてみたいわ〉

 などというような幻聴があった.毎日毎日そんな店の人の幻聴を"遠隔"にて聴きながらこの職場に勤めている.
 今度は珍しく「おはようございます」とある若い女性店員が挨拶してきたので,「おはようございます」と振り返って挨拶を返したところ,どうも視線が合わない.なるほど,私の後ろに居た男性の同僚に挨拶していたと気づいたのも束の間,

 〈(挨拶した相手は)おまえじゃねぇよ!〉

 と彼女の顔を見ながら幻聴が聴こえた.私は挨拶されたのかと高揚としていたが急に落胆してしまった.そんなこんなでマットの掃除機掛けを続けていたら年季の入ったG-SHOCK(腕時計)は8:15を指していた.
 大体これくらいの時間から店外の簡単な雑用を済ました後に,トイレ掃除に入る.以前,トイレ掃除は床磨きを夜番の担当者が行っていたが,現在は朝番の私がなぜか担当することになった.どうして朝に床を濡らして掃除しなければならないのか意味不明なのだが,仕方がない頼まれているのは私なのだから.
 せっせせっせと床を磨いていると,どこからともなく幻聴が聴こえてくる.

 〈(年代の違う初老の男性の声で)かたじけない〉

 私が床を磨いてる姿を見ているのだろうか,忝い(かたじけない)と明らかに現代人本人が使わない言葉で語り掛けてくる.一方で女性の声で,

 〈なんでこんな男性がトイレ掃除なんてしてるんだろう・・・いつもありがとうございます〉

 便器を磨いているところでそのような女性の声が聴こえた.大体,トイレの入り口付近でこの女性からは声を掛けられることが多い.もちろん,姿はみえないのだが.
 店内に戻って,客が入りだしたころからモップ掛けが始まる.この店は2つ玄関があるのだが,玄関付近でモップ掛けをしていると外国語の単語の幻聴が聴こえてくることがある.

 〈アヒンサー/ミザントロープ/パースペクティブ/レゾンデートル・・・〉

 どれも普段私が一切使うことのない知らないはずの単語ばかりだった.しかも英語だけではなくフランス語やヒンズー語など多言語なのである.
 その後もせっせせっせ,せっせせっせとモップ掛けをしていると,ふと友だちの声が聴こえてきた.

 〈陽太はなんで貧乏なのにこんないいお店知ってるんだ・・・〉

 私の長年の経験によると,相手が私を思い出した時に私もそれをアンテナでキャッチするかのように相手を思い出すことが多い.
 そういうわけで,手元のG-SHOCK(腕時計)を確認すると10:15を指していた(※).私が時計を確認した理由は後ほどわかるのでここでは詳細は省こう.
 その後,ある男性店員から言伝でこんなことを言われた.

 「あの~,ダンボールなんですけどこっちのラックに入れないで裏のダンボール置き場のラックに入れてもらえますか?」

 私はわかりましたとすぐ承諾したのだが,その後に彼とすれ違うときにまたこころの声(幻聴)を聴いてしまった.

 〈なんだよ・・・言ったらわかるのかよ〉

 ・・・残念ながら,私は言わなくてもわかる人間なので無口なのである.すれ違う店員のこころの声を聴いてしまうことは最近は減っている――それは服薬している向精神薬の量が2倍になっているから――のだが,以前は本当に大変だった.

 〈(すれ違い間際に)ダッサ~〉
 〈こいつ辞めねぇかなぁ?〉
 〈世の中金が全てなんだよな~〉

 例えば,そんなものばかり聴いたりしていた.
 清掃作業を無事終えて,更衣室でスマホをみる.すると先ほど(※)の友だちの幻聴があったときとほぼ同じタイミングに着信が入っていたことに履歴をみて気づく.私は退勤のタイムカードを切ってから,いつもたばこを吸っている喫煙所で彼に電話をしたら,案の定,この前紹介した寿司屋に彼女と行ってきたがとてもよかったという.
 そう,私は電話が鳴る前にだれからどんな内容で掛かってくるのかというのがどうもわかるときがあるようだ.条件としては,相手が私のことを思い出して思い浮かべて思って何かをするときに私の方がアンテナで受信するようにしてその内容を大方わかってしまうというような感じだろう.

 今日も11:00仕事を終えて帰路に着く.

 夜寝入り際,会社の男女のカップルがピロートークだろうか?私のことを話題にしながら悪口言ってる風なのが聴こえてくる.

 〈あの人極悪人だよね?〉

 ・・・不倫してるおまえに言われたくねぇよとだけはそのとき思った.

 〈あの人要らなくない?〉

 ・・・それでも明日も何食わぬ顔をして,仕事へ行かなければならない.生きる喜びなんてものを語るほど青かないが,私にとって生きるということは今のところまだまだそういうことなのだ.

 以上,ほぼノンフィクションですが,時系列は大幅に変更して書いています.こういった感じで,幻聴の内容など普通の会話で「 」を使用するところ,〈 〉を使用して区別して書いてゆこうと考えます.
 Kindle書籍を出版した際には,もっともっといろいろな実例を含めて,充実した内容にしたいところです.

 連載をお読みいただきまして,ありがとうございました.

※本記事の著作権は陽太に帰属します.
yohta.yingyang(at)gmail.com

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