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それでも、尚。

「また、コレよ」深い溜息をついてしまう。

ごみ箱に入らなかった、クシャクシャになったティッシュ。テーブルには開けっぱなしの牛乳パック。隣には、マルボロの煙草が添えてある。惚れたアタシが間違いだったのだ。

「おかえりー」と呑気に、アイツは風呂場から顔をだす。アイツはいつまでアタシの家に居座るつもりなんだろう。かといって、二人になってもいつも聞きそびれてしまう。いや、聞きたいと思っているのか、そもそも。女心って自分でもわからない。好きって、恐ろしい。

風呂上がりのアイツの身体は少し火照っていた。後ろからギュッと抱き寄せられると、頭がぼうっとしてしまう。大きくて、生温かい手が心地良い。ついさっきまであれだけイラついていたのに、不思議なものだ。今度は自分のことが面倒くさいとさえ思う。

ひとりで食べるコンビニのご飯はお腹を満たすだけが目的だった。ここ最近は手料理のレパートリーがだいぶ広がった。あんまりコンビニばっかり食べさせるのもな、と思うのだ。自分にはあれだけ添加物を積極的に摂取してきたのに。時たまアイツが外食する日に限ってはコンビニで済ませてしまう。数年前よりだいぶ、自分に無頓着だ。

そういえば、毎晩22時にはベッドに入るようにもなった。アイツの仕事は早朝の出勤だから、次第にアタシの生活リズムも夜型から朝型になっていった。今まで観ていた真夜中のお笑い番組も録画する癖がついた。取りだめた番組はアイツが居ない休日に一気に見る。お互い休みがちぐはぐだから、一緒に居られる時はほとんど隣にちょこんと座っている。別にどこへ行くでもない、けれど贅沢な時間。

アイツはまた、好きな番組を観ながら呑気に缶ビールを啜っている。ヘラヘラと笑い声が聞こえる。アタシはそれを横目に、さっき落ちた短い髪の毛をコロコロする。あー、コロコロのシートがフローリングに張り付いちゃった。アイツに「へたっぴー」と笑われる。なんだか、笑けてきた。

やっぱりアタシの人生には、アイツが必要なのだ。

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