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【積み重ね】

扉がじっとり閉じる。
そう、これで、良かったのだ。
何もかもこれで終わり。

空っぽの部屋には、やけに香りだけが取り残されてしまった。
とても、虚しい。虚しい。
まだ現実味はないというのが正直な気持ちだけれど、これも時間の問題だろう。
また思い出しては、嘆くんだろうな、と遠い目で自分を眺める。


原因は、些細な"積み重ね"だった。


シャネルの旧版財布、
僕の好まない真紅の口紅、
鬱陶しいくらい濃いアイライン。
極めつけは、僕より高くなってしまう高いヒール、だった。

それが似合っているのが、悔しくて、僕は何も言えずにいた。

これほどまで尽くしてきたのに、
なんてだらしない言葉が口をついて出てしまった。

「最後くらい」

なんて気づいても、いまさらか。
いや、いっそ、無様な方がいい。
また背伸びしてでも、どうにかしてやりたかった。

ふと部屋の隅に置いてあったタバコが目に入って、すかさず手に取る。
10ミリのラーク。

「これもか」

チッと舌打ちをして、一本指に挟む。
ジュッという音とともに、噎せる僕。
いつまでたっても僕だけ大人になれない。


うわっつらは、いつでも脆い。
どれだけ"積み重ね"ても、崩れてしまう。
 

彼女は、新品よりもビンテージの方が高くつくのよ、なんてよく言っていた。
どれだけ綺麗に美しく飾られた新しいものでも、やっぱり"積み重ね"てきたものは見てわかるのよ、とも。
ビンテージが似合う女になれたらな、なんて。


最後の最後まで、男のせいだと彼女を責めた僕は、最低だ。

10ミリのラークは、ジリジリと僕を痛めつける。

僕は当分、彼女に追いつけそうにない。

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