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自然の光景を1枚の布に織り込める−草木染め手織り・佐藤亜紀①

◇プロローグ:季節のひかりを詰め込んだ手織りものとの出会い

絹糸を草木の染料で染め上げ、手織りで作品を制作する作家が滋賀にいる。
その作家が生み出す織物は、いくつかの同系色の中に差し色が入る色合いでまとめられた平織のストールがメインだ。

紅・オレンジ・黄色、紫・ピンク・グレー、黄・黄緑・薄紫。
2色の淡い藍色で織り上げられたものもある。
それらは夕日に光るまちなみだったり、黄金に輝く稲穂の海だったり、春先に芽吹く新緑だったり、どこか季節の光景を感じさせる。
そしてその布は、光にかざすと輝き美しさを増す。

手に持つと、色の淡さからは想像できないパリッとした爽やかな触り心地がある。
しかしそれを首に巻くとふんわりとした肌触りに変わる。

なんとも不思議な感覚を併せ持った織物。
それを生み出しているのが、佐藤亜紀という女性作家だ。


まだ私が猪苗代の店舗に勤務していた昨年末、当社代表の今井から佐藤さんを紹介されアポを取ったのが出会いだった。

ネット情報によると私と同い年の佐藤さん。しかも出身は新潟だ。旧栃尾市と新潟市という違いはあれどあまり変わらない風土で育った同じ歳の作家さん。
どんな経緯を辿って滋賀へ行き着き、何を考えてこれまで過ごしてきたんだろう?
そしてそれはどんな風に作品に表れているんだろう?
会って話がしてみたい。

学芸員の資格を持っていた身でも実際にギャラリー勤務は初めてで不安の多かった私にとって、興味を持った作家さんに会いに行くことは新天地での希望の一つとなった。

「本物の素材からしっかりと自分の作風を生み出す作家さんたちに直接会い、それを伝えて行こう。日本の作り手に光を当てる一端を担える人になろう。」
佐藤さんとの出会いが私に新たな光をくれたのだ。


◇誠実さを感じさせる甲賀の街並みと佐藤さんとの初対面

新潟市中心部からノンストップで6時間半ほどの距離にある佐藤さんの工房は、信楽焼の里・甲賀市信楽にある。
会いに行くことを決めた時は、なんとなく新潟から石川くらいまでの距離を想像していた私にとって大冒険となった。
一人で車を運転して関西圏へ行くのは人生で初めての経験だったからだ。
ちょうど桜が満開の時期で、高速道路から桜並木をいくつも見付けた。特に富山の朝日と福井(だったと思う)の南条から見えた桜並木は圧巻だった。
いつか桜前線を逆行する旅をしてみたいと思った。


多賀サービスエリアで見つけたたぬきの焼き物


甲賀市に入ると至る所に忍者関連の看板が立ち、信楽町に進むとお店から一般家庭まで、数の違いはあれどほぼ全てにたぬきの焼き物があった。
あまりにイメージ通りだったのでその期待の裏切らなさに感心したと同時に、誠実な土地柄を感じた。

観光地部分を過ぎると、山の稜線と田んぼが広がる地域に出た。
この辺りは幹線沿いに3mくらいの坂道があり、その上にほとんどの民家が並んでいる。
その一角に佐藤さんの工房はあった。

佐藤さんの工房近くのまちなみ

余談だが、坂道の上にある家々が道ゆく人の目線が家の中に入らないようになってるあたり若干警戒心の強さも感じた。戦国時代にここを拠点にしていた忍者に由来しているのだろうか。
それとも過去にこの辺で大きな災害があり、その対策で小高い場所に家を建てるようになったのか。

地形一つでも想像を膨らませる興味深い街だと思った。

少しドキドキしながら坂道を上ると、佐藤さんが家の前で飼い犬のわらちゃんと共に出迎えてくれた。草木染め手織りの、光を優しく通す布の雰囲気そのまま、じんわりじんわりと輝くような印象の方だった。


草木染め手織り作家・佐藤亜紀さん

柔らかな雰囲気に長時間運転で張り詰めていた糸がゆっくりとほどけ、自然と笑顔で挨拶ができた。
そしてそのある種の開放感を受け取ったのか、犬のわらちゃんが尻尾をブンブン振りながら近寄ってきてくれた。

「ああきっと、今日も上手くいく」

そんな気持ちで、工房へ足を踏み入れた。


※ブログは②へ続きます。②では佐藤さんが作家となった経緯と作品についてご紹介します。

また、5/13(土)〜21(日)に三方舎書斎ギャラリー・離れにて「佐藤亜紀展−一枚の布が織りなす季節の光景−」を開催します。
どうぞお楽しみに!



執筆者/学芸員 尾崎美幸(三方舎)
《略歴》
新潟国際情報大学卒
京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)通信教育学部卒
写真家として活動
2007年 東京自由が丘のギャラリーにて「この素晴らしき世界展」出品
2012年 個展 よりそい 新潟西区
2018年 個展 ギャラリーHaRu 高知市
2019年 個展 ギャラリー喫茶556 四万十町
アートギャラリーのらごや(新潟市北区)
T-Base-Life(新潟市中央区) など様々なギャラリーでの展示多数
その他
・新潟市西区自治協議会 
写真家の活動とは別に執筆活動や地域づくりの活動に多数参加。
地域紹介を目的とした冊子「まちめぐり」に撮影で参加。
NPOにて執筆活動
2019年より新たに活動の場を広げるべく三方舎入社販売やギャラリーのキュレーターを主な仕事とする。

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