見出し画像

三浦半島釣り魚図鑑(22) イイダコ

ある日、子どもたちが今日は2匹もタコを釣ったよ、と帰ってきた。うちの子は残念ながら釣れなかったようなのだけれど、お友達2人がそれぞれ1匹ずつ釣ったらしい。そして、「ねえ、タコって放流してるの?」と聞いてきた。

前に、ある日突然カサゴが釣れるようになったことがあって、それがどうやら放流されたものだったらしいことがわかったので、今回も急にタコが2匹も釣れるだなんて、放流したのかな、と思ったらしい。多分違うような気がしたけれども、詳しいことは分からなかったので、今度漁師さんに聞いてみるね、と言っておく。

釣ったタコをうちで友達と一緒に捌くというので、その前に写真を撮らせてもらおうとお皿に入れると、ぐねぐねと動き続けて、まさにタコ踊りを踊っていた。いつも魚のスケッチをする時には、お皿に入れて目の前に置いて描いているのだけれど、さすがにこの動き続けるタコをスケッチはできない。なので、このスケッチも写真をもとに描いたもの。動くだけではなく、色も形もどんどん変わるタコを見ながら描くのは多分相当大変なはずだ。

そして、撮影しようとしていたら、目の下あたりにオレンジ色に光り輝く指輪のような円環を発見した。輪は、液晶のように光が動くので、見える時と見えない時がある。絵では1個しか描いていないけれど、反対側に輪が見える時もあった。

子どもたちがとたんに、「えっ、これ、ワモンダコじゃね?」とか言って盛り上がっている。私はワモンダコなんて初めて聞いた。輪の紋があるタコということらしい。

そして、ずんずん捌いていく。まずは絞めて動きを止め、頭を裏返して内臓を出し、面白いからと墨袋にわざと穴をあけ、子どもたちの手は真っ黒に。その手を白いシャツで拭こうとするからあわてて止める。まあ、私の役割はそれくらいで、見ているうちにあっという間に捌き終わった。

私などは、生のタコを食べられるようにする方法も最近知ったくらいなのに、なんとたくましい子どもたちだろう。(ちなみにその方法というのは、塩でよく揉んでぬめりをとり、足先からチョンチョンと沸騰したお湯につけながらゆでると、きれいに外巻きにカールするということ。)

後でワモンダコについてよく調べてみると、このあたりではそこまで多いタコではないらしく、しかも、紋の雰囲気がなんだか違うなーと思って調べていたら、イイダコにも紋があり、オレンジ色だというので、多分、この時釣れたタコはイイダコだと思う。卵がごはんのようで飯蛸と呼ばれているというあのタコ。

イイダコは小さなタコだと思っていたけれど、この時釣れたタコは頭の先から足先までが20cmくらいはあったと思う。ちなみに、タコ釣りには専用の漁具もあるけれど、このときには二人ともソフトプラスチック製のワームで魚を狙って釣っていたら、タコがかかってきたそう。

手元にあった、岩満重孝さん「百魚歳時記」にイイダコの項があったので、読んでみるとこんなことが書いてあった。

「まだ散ってるね、蛸は。もう少し冷えがこんできたら寄りを見せるだろうね」
こんなことばを漁師の口からきくと、秋も深くなったなあ、と思ってしまうのである。
その蛸というのは飯蛸のことだ。九月中旬ごろからつりはじめる飯蛸つりは楽しい。

「百魚歳時記」岩満重孝

つまりどうやら、イイダコは冬が近づいてくると岸に集まってくるらしい。そして、このタコが2匹釣れたのもそろそろ冬が近づこうとする晩秋だった。ちなみにその後はタコは釣れていない。

のちに漁師さんに会った時に、タコは放流しているのか聞いてみたら、やはりそんなことはないらしい。タコについては、釣っても持ち帰ってはいけないこともあるので心配だったけれど、まあ、地元だし釣れたもんは釣れたやつのもんでいい、と言ってもらったので一安心。もちろんそれはどこでも、誰でもが許されることではないことは理解している。

まあ、この日はうちの子が釣った訳ではなく、当然釣ったタコは釣った子が持ち帰ったので、食べてはいないのだった。たまに漁師さんがとったタコをいただくことがあるけれど、地物のタコはスーパーのタコとは違い歯応えもあって格別にうまい。漁港裏の市場や漁港裏の漁師小屋などをのぞくと売っていることもあるので、もし見かけたら、ぜひお試しを。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?