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平凡な街の鬱陶しい出来事⑥かまってちゃん考

Kさんは、ため息をつきながら小声で話す。
仕事中でもあるし、周囲には多くのお客が来店していた。パン売場の側に私達はいた。
棚の陳列を直しながらKさんは話をした。

「もうね、本当に困るわ。変なおじいさんが最近来ててさ…。」
近頃来るようになった男性客が、他のお客とトラブルを起こすのだと云う。
どうやらわざとぶつかるように歩き、相手が怒るか自分が怒るかなのだそうだ。
要するに喧嘩を売るのだ。
(ま~た変なのがいるのか、スゴいな。)
買い物くらい大人しく出来ないのか?そう思ったが、次の話を聞いて成る程と思った。

おじいさんは、本人曰く、聴覚に障害があるのだそうだ。
それは色々な人がいると思うが、レジの若い女性の所で大声を出すのだそうだ。
『この店員は私を馬鹿にしている!』
レジの女の子はうろたえながら謝罪したそうだが、馬鹿にする様な事は何もしていないとの事だった。
その騒ぎで会計は進まず、レジには多くのお客が並んでいた。
泣きながら謝罪をするはめになったが、その時、老人はニヤニヤと彼女の泣き顔を見て笑ったと云う。
そして満足そうに帰ったのだった。

私はその話を聞いて、その老人がそんな風にレジで文句を付けていたら『爺さん、早くして!』と言ってしまうだろうな、と思った。
またしても困った人が現れたのだ。

そんな話を聞いてた時、向かい合った私達の真ん中をぶつかるように老人が通り過ぎた。
私はハッとしたが、Kさんはそのまま私を見ていて話を続けていた。
私は(今のおじいさんじゃないの?)と思った。ほぼ確信していた。

また話を戻すが、問題のおじいさんは、来店しては他のお客にそうした嫌がらせをしていたそうである。
しかし、店としても苦情を言われても本当は困るだけだ。スタッフでも無い訳だから。

店長が出入り禁止にさせてもらいますね、分かって頂けなければ警察に相談しますのでと伝えたと云う。
すると来なくなったのだが、1、2ヶ月ほどして現れたのだった。

通報されない様に暫く空けて来るようにしていたのだろうとKさんは思っていた。
時々来なくなり、また現れる。
…でも、さっきのは?と私はまた思い出していた。

私はそんなに接点の無いまま時間が過ぎて行った。
どうやらあの老人は来ていない様でKさんは、私に気付くと陽気に「今帰りなの?」と何でもない会話をしながらレジを打っていた。

あれから店の中で問題を起こしている人の話は聞かない。
ようやく静かになったのかも知れない。
職場にとっての苦労は細々とあるようだが、少なくとも注目を浴びる為に他人を振り回す者はいないらしかった。

かまってちゃんは寂しい人達だ。そしてあの老人は長い人生を歩いて来たが、誰かに必要とされるにはどう生きれば良いのか知らないのかも知れない。
常に誰かの視界を遮る所に立ち、相手が自分の姿を強制的に見るように仕向けるのだ。
それしか恐らく知らないのだ。

また続きます( ´-ω-)


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