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映画の乱雑な所感

1週間前くらいから台湾では春節が始まって、人々は我が家に帰り、台北の街や私の住む寮は少し静かになった。晴れの日にはたまに大学の裏の山道や川沿いをぷらぷら歩いて、広い空を感じたりしてみたんだ。
だけど、ほぼ寮の部屋にいて、いつものように頭でっかちな自分と向き合う羽目になった。
ま、それはそれでいいんだけどね。

ところで、いつもは映画を観ようと思い立っても、物語に心が圧倒されてしまうことを恐れて、実際に観るところまでなかなか至らない。
しかし、そんな臆病者があら不思議、ここ最近はどんな映画でもかかってこい!私の心で受け止めてやる!といった風に強気な動きを見せたので(果てしない暇がそうさせたのか?)、気になっていた映画をいくつか観ることができたのである。

そこで、とても断片的な感想をいくつか書き出してみた。
軽くさらっとどうぞ。


犬神家の一族(1976)

子供の頃、テレビの再放送でこの映画がやっていたり、どこかの番組で言及されると決まって母が「犬神家は怖いよ〜う」と脅してきたので、どんなもんかと決死の覚悟で観た。

結果、あまり怖くはなかった。ただ、遺産相続をめぐるテーマや音楽のじめじめとした暗さが陰鬱な雰囲気を醸し出していた。戦争による顔の大怪我を隠すため、覆面を被ったスケキヨがこの映画の恐怖要素にかなり貢献しているはずなんだろうが、スケキヨ単体がすでに有名なあまり、彼への先入観で膨れ上がった私の頭の中では恐怖というより、ああこれがスケキヨね!という達成感みたいなものが勝ってしまった。

スケキヨ、スケキヨ、スケキヨ・・・なんか癖になる存在なんだよなあ。

パプリカ(2006年)

妹や友人におすすめされていたが、アニメーションの感じが一目見て怖そうだったのでこれも長らく尻込み。多分2年くらい。

夢にまつわるテーマで結構面白かったし、繊細かつ色彩豊かな映像美が狂気的で良かった。音楽は平沢進ってことを映画を見て初めて知った。留学に行く直前に買ったCD、まだ聞いてないことを思い出した。


(秘)色情めす市場(1974年)

これは日活のポルノ映画。友人からの、そのサブスクは成人向けのビデオも見れるんだぜという悪知恵めいた助言に、完全に靡いた私の偶然の出会いである。だから最初は飛ばし飛ばしで軽く観ていたが、ただのエロスだけを写した映画ではないことがだんだん分かってきて、見入った。

まず女主人公がこれでもかと魅力的。「ドブネズミの美しさ」を体現している気がする。前に哲学の授業で、娼婦の起源は神に近く、巫女のような神聖さを持つ存在だったと教わったことを思い出した。そのようなことまで記憶から引っ張り出されたほど、逆説的な美しさが溢れている。皆それぞれが悲しみを背負って生きていく、当時の貧しい日本人の暮らしが、最後のスカートをゆらす彼女に滲み出ているような気がした。


田園に死す(1974年)

寺山修司でございます。ちょっと前にちくまの短編集を読んだくらいで、今まで映像には触れたことがなかった。

巷で「前衛的」といわれるものが掴めるような場面が随所に見られる作品だと思う。色彩や小道具、衣装に至るまで、全てが同じ呼吸をしているような気がした。混沌としているようで統一感も感じ得る独特な世界観をみた。

しかし、一体これは何の映画なんでしょう。私は我々の母ちゃん映画だと思う。我が子を産み、我が子を必死で育てる母ちゃん。泣く泣く間引きをする母ちゃん。記憶の中で「母親殺し」を決行しようとする息子。

共産主義者に恋した人妻の死が、日本の古くからの風習と迷信に共存したり飲み込まれてきたりした母ちゃんの、粘りけのあるどうしようもない強さを浮き上がらせているんじゃないかと思う。

あと、私は、最後のバーン!と状況が変わるシーンがとても好きだ。


さらば青春の光  (1979年)

モッズの青春映画。ファッションと音楽が最高に効いている映画。

ロッカーと対決したり、街をめちゃめちゃにしたりするシーンは実に痛快である。私の、自ら抑圧してきた青春とはあまりにも対照的すぎる。
悩める時代の子よ、多分あなたもそうだろう。

痛快さをドキドキしつつ味わいながらも、そんなしけた感じで観ていたからか、激しい喧嘩のシーンやクラブでのダンスシーンよりも、主人公の鬱屈とした表情を写すショットがどうも印象に残っている。晴れない顔をしながら夜通し海辺を1人で歩いたり、崖をスクーターで1人走ったりする。そこに共感ポイントがあった。

日本に帰ったら貰ったモッズコートを毎日着ようじゃないか。


新宿泥棒日記(1969年)

よくわからないんだけど、結構好きな作品。よくわからないけど、まず痩せた若い俳優としての横尾忠則が貴重なんじゃないか。

実際の初代紀伊國屋社長や性科学者が出演していたり、俳優たちのほぼ素のような議論が展開されていたりして面白い。かの唐十郎も耳に残る不思議な歌とともに出てきて、大物ばかりの絵面が私の胸をときめかせた。

本の山積みになった上に倒れ込む肉体。だいぶ頭でっかちな要素が好きだ。

まあ実際はかなり消化不良で、暗黒迷画座の中で居島さんの「当時の新宿をコラージュしたような作品だと思えばいい」という解説でやっと腑に落ちた感じだ。

じわじわとくるこの感じ、多分もう一回観る予感がする。






うーむ、どうも邦画が多いな。

そう、何を隠そう、日本が恋しいのです。







読んでくれてありがとうございます。




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