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鹿島槍天狗尾根遭難を総括する(遭難)(原文)⑭

学習院大学山岳部 昭和34年卒 右川清夫

「鹿島槍天狗尾根遭難を総括する(遭難)(原文)⑬」から

地形、気象条件が共通している実例について(その2)

 手前で壁の上部を見上げ、雪がサラサラ斜面を滑り落ちているなどの予兆があれば即座に引き返すつもりだったが、それはない。一列で30メートルほどの危険地帯を飛ばしてトンネルに入りホッとした、後続のグループは未だ見えなかったが、そのまま新赤倉温泉に降りいつも連絡場所にしている赤倉食堂で待機する。

 そこへ電話連絡が入り、第三グループの一人が雪崩に埋められたらしいとのことで、予測が的中したのを知る。

 現場ではデブリのどこを掘ってよいか見当もつかず、地元の方の協力で、指示された場所に集中し、立ったまま埋まっていた生徒を救出できた。 新雪雪崩に埋められた直後暫くは呼吸も出来たようだが、知らないで頭上を通った雪上車によって雪が圧迫され、一次呼吸が困難になったようだ。 その晩は、安静が必要との医者の指示で教員をつけて入院させ、翌日無事に帰京した。

 五分五分どころか雪崩が出る可能性はほとんど必然だと予測していたのだから、いくら地元で生まれ育った宮沢の言うことであっても、それに賭けたのは無謀というしかない。 情緒的な側面での決定の変更で、理性が敗北したのである。

 実は、表層雪崩による遭難の事例で、このような地形、気象状況が共通しているケースは少なくないと思われる。 地形で言えば、近くに樹木の少ない急斜面があり、気象については、寒冷前線を伴う低気圧で大量の新雪が積もり、朝になっても降雪がやまず、気温は高い、という状況である。

 燕温泉のトンネル入り口の新雪雪崩はその典型だったが、最近では、2017年3月に栃木県那須スキー場で、上部の急斜面で発生した新雪雪崩に襲われてラッセル訓練中の高校生8名が死亡している。 報道によると、前の晩からの降雪で上部の樹木の少ない急斜面に積もった大量の新雪が落下したものと言われている。 その朝の気温は報道されていないが、写真で見る限りスキー場上部までは見通せなかったようだ。 引率の教員も犠牲になったが、彼は登山経験もなく雪崩の予知など全く無縁であった。

 地元のスキー場関係者によると、上部の急斜面では前にも雪崩が出たことがあるという。 夜から朝にかけて大量の新雪が急斜面に積もって、その朝も降り続いていた。 急斜面と朝にかけての大量のドカ雪という2つの項目だけでも、充分雪崩の予知は可能だったと思うが、加えて降雪が続いており上部の斜面の見通しも悪く気温が下がっていなかったようだ。 積雪の状況は不安定だったのである。

 スキー場関係者は、少なくとも朝のうちのラッセル訓練は中止するよう強く歓告すべきだった。 登る方向を左に取れば樹木の多い斜面なのに、上部の急斜面に向かってまっすぐ登っていったのは、無知によるとは言えほとんど自殺行為だったと思う。

 ここで他の事例を挙げたのは、鹿島槍遭難時と地形、気象が共通している場合には、新雪雪崩の危険性がほとんど必然だということを確認したかったからである。

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