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鹿島槍天狗尾根遭難を総括する(遭難)(原文)⑬

学習院大学山岳部 昭和34年卒 右川清夫

「鹿島槍天狗尾根遭難を総括する(遭難)(原文)⑫」から

地形、気象条件が共通している実例について(その1)

 上記の気象状況は、その後、私が個人的に経験した新潟県燕温泉から赤倉に向かう途中のトンネル入り口での3月の新雪表層雪崩発生時の状況と酷似している。 地形について言うと、急斜面があるという点では、燕温泉から緩やかに下っていく道の先にトンネルがあるが、その入り口の30メートルほど手前の右側は、時おり雪崩の落下する壁になっていて、70度以上の急斜面には雪崩止めの棚が何段も設置されている。 地形的には、近くに急斜面があるという点で、天狗の鼻の周辺の状況と共通している。

 中・高校生50名ほどを連れて燕温泉の旅館と、トンネル手前の燕ハイランド・ホテルに分宿していた。

 スキー合宿最終日の朝、前の晩の吹雪で1メートル以上の新雪のドカ雪が降り積もり、吹雪はおさまっていたが、朝になっても雪は静かに降り続いていた。 気温も高く、周辺は霧に包まれていて先の見通しは悪かった。 季節に1月と3月の違いはあるが、前日から夜にかけての低気圧、寒冷前線の通過と新雪のドカ雪、周囲が霧に包まれ朝になっても降雪が続いていたという状況は、鹿島槍の遭難の天狗の鼻の周辺のそれと酷似していた。

 全員出発の準備を終えて玄関のロビーに集合していたが、雪が止んで積雪が落ち着く昼過ぎまでは出発しないと決定した。 これだけ条件が揃えば、トンネル入り口手前の危険地帯上部で新雪雪崩が発生するのはほとんど必然だと予測したからである。

 生徒とホテルの宮沢社長にもその旨伝えたが、折悪しく、夜行で来た団体が到着し、玄関のロビーはごった返していた。 その混乱を収拾するのは容易でなかったため、宮沢は必死で予定通り出発してほしいと懇願してきたが、これだけは出来ないと強硬に拒否する。

 しかしついに、宮沢は、この地元で生まれここで育った者の言うことを信用してほしいと泣き落としを始め、30分ほど言い合ったが、結局彼に口説き落とされ、決定を変更し出発することにした。

7,8名ずつのグループに分け、トップとラストに教員を置く。 私は教員が足りないので一人で第一グループを連れていくことにした。 ラストとの間隔をできるだけ詰めさせる。 トンネルの入り口手前の壁には新雪が積もっていて雪崩発生の危険性から言えば、これ以上危ない場所はない。

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