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鹿島槍天狗尾根遭難を総括する(遭難)(原文)⑫

学習院大学山岳部 昭和34年卒 右川清夫

「鹿島槍天狗尾根遭難を総括する(遭難)(原文)⑪」から

天狗の鼻周囲の状況・新雪表層雪崩は一触即発

幕営地の地形と12月30日朝の周辺の気象状況

 テントは、天狗の鼻の円頂上に張られていた。 周囲は、テントを出るとすぐ、どの方角でも降りの急斜面になっている。 そこへ、猛吹雪とともに前夜(12月29日夜)ドカ雪が降り積もったのである。 テントの周囲は大量の新雪に埋め尽くされた。

 大井正一によるこの時の気象状況を参考に、視界についての小谷の証言もあわせてこの朝のテント周辺の地形と気象状況を整理してみたい。 「前夜のドカ雪が降り積もったあと、吹雪はおさまったがシンシンと降雪が続いており、テントの周辺は濃霧に包まれていて視界は5メートルもなかった。」というのである。

以下、ここで挙げられている条件を5項目にまとめてみる。

(1)テントの周囲は、どの方角でも降りの急斜面である。
(2)斜面は樹木が少ない草付きである。
(3)テントの周辺では、前夜からの新雪のドカ雪が降り積もっていた。
(4)吹雪はおさまっていたが雪はやまず、静かに降雪が続いていた。
  
(降り積った新雪は、安定していなかった。)
(5)周辺の気温は高かった。テントの周囲は濃霧に包まれていた。

 この内、(1)と(2)は地形について、(3)~(5)は気象状況に関するものである。

 こうして整理し直せば容易にわかるが、近くに(1)と(2)のように降雪による雪崩の出やすい急斜面がある場合、(3)(4)(5)のどれか一つが当てはまっただけでも、表層雪崩の危険は極めて高くなる。 まして、この朝の場合、地形も含めた5項目の条件は、すべて揃っていたのである。 新雪表層雪崩の発生はほとんど必然だったと言って良い。 テントの周辺は、雪崩が一触即発の状況で、雪崩を予知出来るかどうかのレベルを超えていたのである。

 雪崩の確率が仮に五分五分(50%)だったとしても、テントを出て行動することに命を賭けるのは無謀というべきだろう。 しかも、この朝の状況は、雪崩の危険性が五分五分を遥かに超えていたことを示している。 テントを出て降りにかかれば、直ちに雪崩に遭遇するのは、ほとんど必然だったのである。

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