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鹿島槍天狗尾根遭難を総括する(遭難)(原文)⑮

学習院大学山岳部 昭和34年卒 右川清夫

III 遭難の原因

1.鹿島槍天狗の鼻での遭難の原因

 既に見てきたことで明らかだが、鹿島槍天狗の鼻での新雪表層雪崩による遭難は、雪崩そのものは自然現象でありそれに巻き込まれたことによって生命を失う結果になったのだが、不可避の自然災害、すなわち天災ではない。 この雪崩はほぼ確実に予知出来たし、テントを出発せずに積雪の状況が落ち着くまで動かないことしていれば、最悪の事態は充分避けられたのである。 四人の遭難は、人災である。

結論: この朝4名がテントを出発したこと自体が、この遭難の原因である。

 彼等には、周囲のどの方向に降っても雪崩の危険は一触即発だったという状況に対する切迫した危機感は、全く欠けていた。 地形、気象を考慮して雪崩を予知するという基本的な知識とそれを警戒する姿勢が欠落していたからである。

 新人の清水、藤原に経験や知識を求めるのは無理だろうが、大鈴、小鈴は富士山大沢の雪崩による遭難の捜索活動に協力しているし、高所キャンプの訓練、各種技術講習会にも参加しており、よく先輩を訪問して自然の怖さを聞いていたとのことだ。 両名は、相当な知識と一定の技術は身につけていたのである。

 しかし、周囲の地形、気象状況などから雪崩を予測するという基本的な知識を欠いていては、いくら自然の怖さを頭で理解していてもその怖さを雪崩と結びつけることはできない。 高度の技術も、実際の役には立たなかった。 雪崩の危険を示す赤ランプが一斉に点滅しているのにそれが見えず、雪崩への切迫した危機感を持てなかったのである。

 彼等は、登山家としての技術や、高所幕営の訓練などと無関係のところで遭難した。 このケースの特徴である。

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