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鹿島槍天狗尾根遭難を総括する(遭難)(原文)⑱

学習院大学山岳部 昭和34年卒 右川清夫

(4)水に入らなければ溺れない?

 テントを出発したことそれ自体がこの遭難の原因だという結論について、“動かなければ良い”というのでは、“水に入らなければ溺れない”というのと同じではないかという疑問もあった。 それは、“事態は状況によって変わる”ということを無視した議論である。

 言うまでもないが、いつまでもテントを出てはいけないと言うのではない。 樹木の少ない急斜面に降り積った大量の新雪が、濃霧で示されているように気温も高く降雪も続いていて極めて不安定な状況だったのが、その朝の状況である。 テントの周囲はどの方向でも雪崩が一触即発だった以上、このような状況の下で、その朝出発してはいけなかったのである。 しかし、一日中動いてはいけないというのではなく、少なくとも昼過ぎまで、濃霧が解消し、積雪の状況が落ち着くまで待つ必要があったということである。

 出発する場合も、いきなり降り始めるのではなく、まず、急斜面の状況をよく見ることだ。 あるいは、既に雪崩が発生していたのかもしれないし、その場合には、そこですぐに雪崩の出る危険はないが、恐らく根雪か草付きの急斜面になっている滑りやすいところを慎重に降ることになろう。 地形(斜面の形状)、気象状況は刻々と変わる。 その変化を見定めてから出発するかどうかを決め、慎重に行動すべきだということである。

 これは、実際に小谷が下山した際に経験したことであろう。 又、テントの撤収に当たって、山崎徹、芳賀孝郎らが苦労した状況でもある。

水に入らなければ泳げるようにはならない。ただし、海岸に赤旗が立っている時に、海に入ってはならない。

「鹿島槍天狗尾根遭難を総括する(遭難)(原文)⑰」から

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