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鹿島槍天狗尾根遭難を総括する(遭難)(原文)⑲

学習院大学山岳部 昭和34年卒 右川清夫

「鹿島槍天狗尾根遭難を総括する(遭難)(原文)⑱」から

IV   雪崩の予知について

 繰り返し述べてきたが、遭難の原因を明らかにするのは、そこから学ぶことで再発を防ぐのが目的である。

 ここでは、雪崩の予知について、その条件をやや詳しく見ていきたい。 これらが揃っていれば、雪崩が発生する確度は極めて高いということになる。 この遭難から学べることである。

 雪崩の予知は、周辺の地形と気象状況を見ることによって可能になる。 この他、雪氷の性質などでもさらに専門的な研究が必要で、現在必ずしも科学的な予知の方法が確立されているわけではないが、ここでは、前述の5項目について考えてみたい。

 最初は、周辺の地形についてであるが、新雪が降り積もった直後の急斜面は、それだけで雪崩の危険性が高い。 特に、澤、谷筋は危険度が高い。 しかし、幅が広い尾根であれば、地形と気象の状況によっては、尾根筋でも雪崩が発生することがある。

 1971年3月17日、学習院大学山岳部の千木良滋夫、飯塚洋二は、剣岳上部の尾根で幕営中に雪崩に遭い、1名が死亡している。

(1)樹木が密集していれば、かなりの急斜面でも雪崩が発生しにくいと言えるが、疎林の場合はその限りではない。

 雪崩の巨大なエネルギーが巨木をなぎ倒して落下したケースは少なくないのである。 樹木が少なく、地表が草付きの場合は雪崩の危険性は極めて高くなると見るべきだ。

 前述の山崎徹の証言によれば、尾根から登る際の天狗の鼻の頂上直下の急斜面がそれだったし、マカリ澤へ降る急斜面も樹木はなく同じ状況だったと思われる。

 当日の朝、テントの周囲は濃霧で視界が閉されていたのが不運だった。 視界があり下の方まで見通せていれば、新雪の深く積った急斜面を見下ろして、そこを降ろうとはしなかったであろう。

 地形について注意すべきことは、まず、周辺に急斜面があるかどうかを確認することだ。 今いる場所がゆるい斜面でも、上部の急斜面で雪崩が発生する可能性はあるからだ。 最近の栃木県那須スキー場の遭難がその例である。

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