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鹿島槍天狗尾根遭難を総括する(遭難)(原文)⑳

学習院大学山岳部 昭和34年卒 右川清夫

「鹿島槍天狗尾根遭難を総括する(遭難)(原文)⑲」から

(2)夜から朝にかけて降雪が続き、新雪が大量に降り積もっている場合は、当然、周囲の急斜面での新雪表層雪崩を予想すべきである。

 天狗の鼻の場合は、テントを出てすぐ降りに入ところから急斜面になっている。 新雪のドカ雪が積もっていたといとう状況では、ほぼ間違いなく新雪表層雪崩の発生を予測すべきだったのである。 気象に関するこの条件だけでも、雪崩は一触即発の状況にあったと見るべきなのだ。 可能性と言うよりは、むしろ必然性があったと言っても過言ではない。

 朝の急激な気温の低下によって新雪のドカ雪が凍結する場合もあるが、気温が低下しているというだけで、あえて危険を犯すべきではない。 気温が低く晴れていても、積雪が落ち着くのを待つべきである。

 燕温泉の例では、前の晩までに降り積もった新雪のドカ雪は、それだけで、危険地帯の急な崖からの雪崩の脅威を警告していた。

 新雪のドカ雪と急斜面の組み合わせは、仮に気温が下がっていても、それだけで表層雪崩の危険を警告している。

(3) 朝、吹雪がおさまっていても、依然として降雪が止ます、静かに雪が降り続いている、という状況は、必ずしも科学的に確定してはいないが、新雪雪崩を予測すべき重要なサイン、「兆候」の一つと見るべきだろう。

 雪が降り続いている間は、積雪が安定しているとはいえない。 降雪そのものの積雪に対する刺激、あるいは雪崩寸前の積雪ヘのさらなる荷重が不安定な積雪を動かす契機になることは充分考えられるからである。

 別の言い方をするなら、降雪がつづいているという現象は、新雪のドカ雪が積もりつつあったという前夜からの気象状況が、いわばそのまま続いていることだと考えるべきだろう。 そうであれば、降雪が続いている間は、気象状況が変わって積雪が安定し始めたとはとうてい言えないのである。

 燕温泉の場合は、まさに、天狗の鼻の気象状況と瓜二つであった。 乾燥粉雪ではなく、重い湿雪が降り続いていたのである。

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