見出し画像

鹿島槍天狗尾根遭難を総括する(遭難)(原文)㉒

学習院大学山岳部 昭和34年卒 右川清夫

(5)雪崩予知をどのように活用するのか?

 地形と気象状況から雪崩の予知が可能であることを学んだが、それを今後の再発防止に役立てるには、以下の3点を考える必要がある。

①新提案:積雪期山行前に雪崩予知については参加者全員が学習する

 積雪期の山行前には、新人も含めた参加予定者の全員が前述の雪崩を予知するための五項目について確認するべきである。 この他にも、自分たちの経験や他の雪崩の實例を調べて、急斜面の表面を雪がサラサラ落ちていくなど小さなことであっても予兆と考えられる事柄を付け加えることで、予知の条件を豊富にしていく必要がある。

 地形についても、そこが急斜面であるだけでなく、前からの積雪が根雪になっていてその上に新雪が積もると、雪崩の危険性は更に高くなる。 積雪が滑りやすいという意味では、樹木のない草付きと同じ効果を持つからである。

 参加者全員で確認するというのは、この基本的知識に関する限り、リーダー、サブ・リーダーだけでなくメンバーが全員でそれを理解し身につけるということが目的だからである。 こと雪崩予知については、自分たちの生命をリーダー一人に委ねてはならない。 このような提案は、今まで登山の世界で誰からも出されたことがないし、登山関係の雑誌、書籍で論じられたこともない。 しかし、予知によって回避出来る雪崩遭難という致命的な事態を繰り返さないためには、恐らくこの手法が唯一の答えかと思う。

 既に起こった雪崩遭難のケースでも、メンバーがこの基本的な知識を持っていれば、赤信号の点滅を見ることが出来る。 仮にリーダーが信号を見ることが出来ないままそれを無視しようとする場合には、キチンと反論して決定を変えさせることになろう。

 メンバーの意見がもっともであれば、当然、リーダーはそれを理解し、決定を修正することになる。 もしそうしない場合には、リーダーの面子とか根拠のないプライドなどに遠慮してはならない。 パ―ティー全体で説得するべきである。 生命の危険には代えられないからである。

 あらゆる分野で、パーティー全員が必要な知識を持つべきだなどと言っているのではない。 そのようなことは不可能だし、リーダーの指揮権を巡って混乱することにもなりかねない。

 ここでは、積雪期の雪崩予知に限っては、誰もが基本的な知識は持っていなければならないと提案しているのである。

 このような提案は、なぜか、従来議論されたこともないが、雪崩予知を有効に活かすために、今後議論を重ねて具体化してほしいと願っている。 この提案の具体化で、雪崩による遭難が大幅に現象することを確信している。

「鹿島槍天狗尾根遭難を総括する(遭難)(原文)㉑」から

「鹿島槍天狗尾根遭難を総括する(遭難)(原文)㉓」へ

#学習院大学 #学習院大学山岳部 #学習院山岳部 #学習院山桜会 #山桜会 #大学山岳部 #遭難 #鹿島槍ヶ岳 #鹿島槍ヶ岳天狗尾根

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?