脳出血当事者の私が「多様性」と「優生思想」の間で生きる理由
わたしは25歳の誕生日前日、2018年3月3日に脳出血を起こしました。言わば、翌日の誕生日を24年間共にしてきた身体・精神(脳機能)とは異なる状態で迎えたことになります。
輪廻転生的な生まれ変わりを信じていない私ですが、2年半前の自分のような状況なら、生まれ変わったと言っても大風呂敷ではないように思います。
身体障がい者にも高次脳機能障がい者にも該当しないけれど、左上下肢麻痺と高次脳機能の低下を感じて生きる日々。
都内で働きながら愛猫とともに生きる私は、復職以降「多様性」と「優生思想」について考えるようになりました。
今回は人生半ばで脳出血を起こし、目標や人生観を見失ってしまった当事者に向けて、私が社会復帰を経て考えた自分の人生観をご紹介します。
人生観や目標の再設定にお役立ていただければ幸いです。
多様性の解釈~脳出血を経て~
私はかつて書いていたブログで「多様性」について次のように述べました。
つまり社会生活の中で一方のみが主張を行う限り「多様性」には程遠い、ということです。
実際に私は復職する際に自分の状態を人事や上司に説明してはいましたが、業務量や業務環境は当たり前のように自分で工夫をしてメディア編集を担当していました。
もし、私がグレーゾーンだと決心せずに復職していたら、早々に気力が削がれ、多様性を守る意識もなく他者を攻撃していたと思います。
孫引きになってしまいますが、私が感じた「多様性」の難しさを解明してくれたのはコルク代表の佐渡島さんのnoteをご紹介します。
病気になると、病人役割を担うように人はなってしまうらしい。この病人役割という概念を僕は初めて知ったのだけど、病人としての分人が、分人の構成比でほとんどを占めてしまうのだと考えるとわかりやすい。病気は、暴力的に、人の分人を減らしてしまうのだ。
つまり私のように病と共生する人は、小説家・平野啓一郎さんが提唱している分人主義(個人は環境や場面によって自分を分けることができる)において多くの場合で分人が「病人」としての役割を担ってしまうのです。
つまりセクシャルマイノリティーの方が参加するレインボーパレードや、24時間テレビを見ていると、多様性を受け入れられないのは健康なマジョリティ側であって、病気や障がいなどと闘うマイノリティではないようにイメージされがちですが、必ずしもそうとは限らない。
私が健康なマジョリティ側であったからこそ、このように多様性を解釈したのだと考えています。
心身ともにグレーゾーンになった私の価値観を形づくったコンテンツはもう一つあります。石田スイさんの『東京喰種』(2011~2018)です。
主人公の金木研は人間の大学生でしたが、ある事件がきっかけで半分人間として、半分人を食べて生き永らえる喰種として生きる運命を背負います。
彼が半喰種として生きることを決心したときの台詞に次のような一文があります。
もっと、知るべきなんだ、人間も、喰種も。『東京喰種 1』
私は2018年9月~2019年まで、20代前半で先天性疾患で脳出血を患った運命を呪っていましたし、私を支える人が社会(あるいは会社)にいない事実に憤りを感じていました。
しかし、佐渡島さんのnoteから平野啓一郎さんの著書、主張を知ってからは自分の症状を認知するために神経心理学についての本を読むだけではなく、マジョリティ(『東京喰種』に例えるなら人間)から見たマイノリティ(喰種)を知ろうと優生思想について調べるようになったのです。
優生思想と多様性の間で生きる意味
優生思想が影響した事件として記憶に新しいのは2016年の相模原障がい者施設殺傷事件、そして2020年のALS患者嘱託殺人事件ではないでしょうか。
生産性が重視されるようになった現代、これらの事件が表すように生産性が低い人間は排除されやすい傾向にあるのは感じやすいかと思います。
さらに深堀りすれば、この傾向は優生思想と密接に関係していくと私は考えています。
私の経験に依存したお話しにはなりますが、人材業界で仕事をしてた過去を思い出すとどうしても、現代に優生思想が跋扈する状態は何ら珍しくはないと思ってしまうのです。
私は自分が優生思想の標的になりやすい事実も受け止めた上で、あえて優生思想について学ぶことを決意しました。それは私がこの世界で生き残るためのルールを明らかにするための(ゲーム理論的な)試みでもあります。
さらには「多様性を主張するからには、両者をよく知りたい」というグレーゾーンとして生きる自分の願いでもあります。
『東京喰種』で金木研が喰種としての自分を憂いて「もう…食べたくない…」と言ったように、私はもう誤った多様性を振りかざしたくはない。
かと言って優生思想を振りかざして自分より重い障がいや苦しい境遇に居る方に「私は○○だから良かったです」と心無い言葉をかけたくもない。
優生思想と多様性の合間…グレーゾーンで生きる意味とは、金木研のように苦しみながらも両者が共生していくための課題と解決策を絶えず発信できるからだと思っています。
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