本紹介#1 ネタ難民ライターに届けたい!
スラスラ読めちゃうテンポの良さ
ここ最近、書店に立ち寄ると、芸能人のエッセイ本が並んでいるのをよく見る。だが、私はエッセイ本というものに若干の抵抗があり、読まず嫌いしていた。
そんななか目に留まったのが、『僕の人生は事件が起きない』(新潮社、1,200円)である。
著者はお笑いコンビハライチの岩井勇気さん。
その頃、友人に勧められてハライチのラジオを聴き始め、岩井さんの大ファンになっていた私。
好きな芸人さんのエッセイ、そして「僕の人生は波瀾万丈ではありません」を前面に出したタイトル。
これはおもしろそうだ!!
その日、私は人生初のタレントエッセイ本を買った。
家に帰るまで待ちきれず、カフェに入ってすぐさま読んだ。彼のエッセイは一文一話が短く、テンポ良くスラスラと読めてしまう。
内容はどれもありきたりな日常の話で、まるで同級生と会話をするときのような、身近な話題ばかり。
ほとんどの話が6ページほどで完結していて、気持ちが疲れる前に読み切れる。
時系列や伏線があるわけでもないので、目次を流し見て「なんだこのタイトル」と気になった話から読むことができるのだ。
共感の多い日常メインの話の面白さ
この本は短編25話で構成されている。そのほとんどが岩井さんのごく普通の日常話である。
数ある日常話の中で特に共感した話があるので、2つ紹介したい。
1つ目は、『コーヒーマシーンに振り回される』である。
岩井さんはある日、通販でコーヒーマシーンを買ったのだが、そのコーヒーマシーンには「コンセントは電源に単体でつないでください」の文字が。
1人暮らしのキッチンにあるコンセントはせいぜい3口程度しかなく、すでに電子レンジ・冷蔵庫・オーブントースターで定員いっぱい。
どれかを延長コードでまとめようとするものの、全ての家電に「電源に単体で繋いでください」の文字があり、一体どうすれば…と絶望する岩井さん。
容易に想像できる状況に思わず「あるわ〜そうなんだよなあ」と、つい笑いが漏れてしまう。
私の場合はそんな注意書きを無視してタコ足で全部繋いでしまうところだが、岩井さんは葛藤の末、どれか1つを使うときはどれかを抜くという手段を選んでその場を切り抜けた。
その後、なんとか準備を整えたコーヒーマシーンでコーヒーを嗜む岩井さんだが、岩井さんとコーヒーマシーンとの戦いはまだまだ続く。
続きは本書をぜひ読んでほしい。
2つ目は『珪藻土と自然薯にハマった』である。
こちらは芸人さんならではの斜め上の発想に驚く。
お風呂マットとして使っている人も多いであろう珪藻土。私も珪藻土マット愛用者の1人である。
ぐんぐん吸水するその能力に魅了された岩井さんは、あらゆる珪藻土グッズを集めた。ふとある日のお風呂上がり、珪藻土マットの上に立ったとき、あの抜群の吸水力を足裏に感じ「自分の体内の水分をこいつに全て吸い取られるのでは…?」と怖くなったらしい。
「いや、なんでや」とつい頭の中でベタベタのセリフを突っ込んでしまった。しかし岩井さんは突拍子のないその発想に自ら恐怖し、珪藻土を使うのをやめたそうだ。この話には自然薯(じねんじょ)の話が続く。
ある日スーパーで自然薯を見つけた岩井さんは、ロケで食べた自然薯鍋を思い出し、その味を再現しようとするのである。
味を思い出しながら試行錯誤し、見事理想の味を再現することに成功した。
その数日後、もう一度食べたいと思い立ち、スーパーで自然薯を購入した岩井さん。次はもっと自然薯のとろっふわっとした食感を感じたい、と先日の2倍の量の自然薯を入れた。
どんな美味しいものが出来上がるのか…ワクワクとした気持ちで蓋を開けると、そこには見るも無残なドロドロの液体が。
自然薯が全ての具材を取り込み、未知の物体と成り果てていた。
食べるにも味が悪く、捨てるにしても半固形と化した自然薯鍋だったものは排水口に流せない。
一体どうすれば…と途方に暮れる岩井さんだが、ここである案を思いつくのだ。
抜群の吸水力を持つ珪藻土 VS ドロドロの半固形物体と化した自然薯鍋。
双極に立つようなこの2体を戦わせれば相殺できるのでは…?
岩井さんは悩んだ末、そう思い立ったのである。
その後どのような結末が待っているのか、ぜひ続きは本書で。
ちなみに、本書内に登場する自然薯鍋は、分量を間違えなければ実に美味しい。醤油・昆布ベースのお出汁に自然薯80グラム程度。具材はお好みで。
おすすめは白菜・もやし・ねぎ・鶏肉だ。ぜひお試しあれ。
ラジオで面白さ倍増
本書の楽しみ方はただ読むだけにあらず。
実は本書に収録されている話は、そのほとんどが彼のラジオ『ハライチのターン』(TBSラジオ、毎週木曜深夜24:00~25:00)でも語られている。
ラジオの方では、岩井さんの臨場感あふれる話術、相方澤部佑さんのキレのあるツッコミと心地いい相槌、2人の笑い声が相まってより一層楽しめる。
本で語られていない後日談がラジオで語られていたり、反対に、ラジオで語られなかった詳細が本書に書かれていたりと、ラジオと本の両方で楽しむことができる。
読んだあと、日常がちょっと楽しくなる6ページ
本書は駆け出しライターでネタ探しに困っている人、エッセイに抵抗がある人、なんだか少し疲れたなという人にぜひ読んでみてほしい。
きっと約6ページの1話を読んだあと、ちょっとだけ日常が楽しくなる。
岩井さん自身も本書内で語っているが、彼は決して波瀾万丈の人生を生きてきたわけではないのだ。
ただ彼は、大事件が起きるわけではないごく普通の毎日を、おもしろ楽しく過ごす思考や、楽しく変換できるコツを知っている。
思考だけではない。
ライターとして活動し始めて間もない私にとっては、テンポ良く読めてしまう語感のいい文章、何気ない毎日からちょっと楽しい発想を生み出す岩井さんの視点、どれもがとても勉強になる。
もはやこの本は私のバイブルだ。
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