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歳を取った時、自由と安全どちらを優先したい?


80歳代女性に複雑な「仕組み債」購入後損失。金融機関に950万円支払い命令

高齢者の投資に関する興味深いニュースが入ってきました。


80歳代の女性が、金融機関で「仕組み債」というリスクの高い商品を購入後に1,140万円の損失を被った。
東京地裁は金融機関に約950万円の支払いを命じる判決を言い渡した。
判決は女性が投資経験に乏しく、投資の目的は「資産の保全」と伝えていたにもかかわらず、担当者は複雑な商品の購入を勧誘したと指摘。


私の知る範囲でも、高齢者が十分な
理解をしないまま金融機関からの
勧めで商品を購入しているケースは
たくさんあります。
私が数年前に知り合った90代の
お一人暮らしの女性は、
誰にも気づかれることなく
認知症と思われる症状が
かなり進行していました。
いいえ、気づいていた人たちがいました。
その方のご自宅に頻繁に出入りしていた
金融機関の営業担当の方々です。

私が初めてご自宅を訪問した時、
金融商品を購入した際に取り交わした書類が
山積みでした。
ご本人に尋ねても、
「わからない」「知らない」と、
理解も記憶もかなり乏しいものでした。
ご本人は、訪ねてくる営業の方
に勧められるままに金融商品を
購入していたのです。
後からわかったことですが、かなりの損失が
出ていました。
恐らく、彼らはその方の理解力が
乏しいことはわかっていたと思います。

高齢者の投資傾向

今回のニュースの女性は、
判断能力がどの程度なのかはわかりませんが、
高齢者をターゲットにして、
複雑なハイリスク商品を販売する
金融機関は存在します。

若い世代の投資家は金融機関へ支払う
高い手数料を嫌い、
手数料の安いネット取引を選ぶ傾向があります。
一方、高齢者は金融機関のブランドを
信用する傾向にあるのでしょうか。
まだまだ対面販売を好む方が多いです。

これからの流れ

そもそも金融商品を販売する際、
金融機関はその顧客が金融商品の性質に照らし、
十分な知識や情報収集・分析、判断能力、経験、
財産があるか、その方の投資目的に
沿っているかを調査しなければなりません。
これが十分でない場合や、
金融商品がご本人の投資目的と異なる場合、
勧誘自体が禁じられています。

ですが、実際は上記の90代の女性のような
勧誘、販売が横行していると感じます。
そして、「投資は自己責任」という
大義名分の下に、被害が明るみになることは
あまりありませんでした。

今回東京地裁が出した判決は、
かなり画期的です。
これは高齢者への金融商品販売に
大きな影響を与える判決となるでしょう。

考えられるのは、
①金融機関が守らなければいけないルールが
より厳格になる。
例えば、高齢者が金融商品を購入する際には、
第三者(子や孫などの親族)の同意が
必ず必要になるかもしれません。

②損失を被った高齢者からの訴えが増加。
この判例をきっかけに、
これまで泣き寝入りしていた方やその親族が
「裁判で取り戻したい」と思うかもしれません。

これらは一見、高齢者を守るための
良い流れかもしれませんが、
そうとは言い切れない一面もあります。

高齢者の自由とは

今回のような判決が出たことで、
高齢者を守る方向に進みそうですが、
それは
「高齢者が自身の判断のみで活動できる範囲が
狭くなる」という流れにもつながるかも
しれません。
仮に、金融機関がこれまで以上に
高齢者に商品を販売する際に説明責任を
果たしたという証明をしたいと考えた場合、
販売時に、親族など第三者の
同意や同席を求めるようになるかもしれません。
それは、高齢者が自分の経済活動を
自分の判断だけでしづらくなることに
つながっています。

「自分のお金で、自分の判断で
気に入った物を買う」
こんな当たり前の行為が
制限されてしまうかもしれません。

老人ホーム入居時と同じ

ほとんどの老人ホームが第三者の保証人を
立てることを求めるのと似ています。
その保証人が同意しないと、
本人がいくら気に入った老人ホームであっても
入居できません。
また、保証人になってくれる人がいない場合は、
保証人サービス事業者に高額な料金を支払い、
見も知らない人(法人)が保証人になるという
ケースが多いのが現状です。

歳を取るというだけで、当たり前の自由がなくなるかも

理解力や判断力があるかないかの判断は、
認知症専門医であっても難しいものです。
そうなると、理解力や判断力がある、
ないにかかわらず、
高齢者というだけで一括りに「誰かの同意」を
求められてしまう世の中になる可能性は
十分にあります。
それにより、高齢者が守られ、安全になる反面、
高齢者の自由や「失敗する権利」が
奪われてしまいます。
このバランスは難しく、専門家によっても
意見が分かれるでしょう。

みなさんは歳を取った時、
安全を重視しますか?
それとも自由を謳歌したいですか?

はる社会福祉士事務所 佐々木 さやか

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