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女子タイツ

東日本の寒い山間の町に暮らしている私たち夫婦の、2月半ばの、とある日に起きた大きな事件、というほどでもない。
基本毎日スカートを穿いて通勤する会社員の妻。寒くないのかしらと聞くに、寒冷地向け極厚タイツなるものを穿いているから、という返答が帰ってきた。なんと110デニールという厚さで、まあダンナの私が言うのも何ですが、「どうよ」と言わんばかりの艶を花粉のごとく振りまいていた、若かった頃の妻なら、決して穿かなかっただろう極厚非道(笑)のもの。すっかり寒がりになっちゃったのね。テレビで東京の女子アナが「スラックスにはパンプスはいて女の子全開でお出かけしましょうね」などと言おうものなら、画面に向かって激しく抗議、「くっそさむいこっちじゃ、足首出したら、あっつうまに(あっという間に)死んじゃうよ、やっぱアグのブーツが神だな!」と騒ぎまくっている位の毎日なので、最近お気に入りの例の極厚タイツについて、レビューなど聞き取り調査すると、返答一発「あったかいよー」
さあ、そこで、そこで、だ!
おもむろに私は妻に言う。
「ちょっと試しに穿かせてみてよ。てか、一枚オレにちょうだい!」
「え?」妻はおれを訝しげに見る。
「いや、あの、ね、変態てわけじゃあないんだけど、いやちょっと変態かも知れないけど、暖かいんだよねえ、それでぴっちりしていれば、メンズのみなさんにも具合良いのかなあと思って、さ(汗)」 
妻はあっさりと「うんいいよ」
「わーい」
一枚もらったのは良いが、妻の目の前で初着用、初体験するのも恥ずかしいから、自分の部屋に持って行こうとする私。
「パパ、あのね、あたしの見てないところでこっそり穿く方が変でしょ」 
そんなご指摘もあり、妻の前で堂々と女子タイツを穿いてみた。
違う趣味(女装)としての快感は込み上げてこなかったけれど、ストッキングを穿くとき、女子が皆するような仕草、つまり足の途中で止まってしまっているタイツをずり上げる、爪をたてないように指先を丸めながらオマタまで引っ張りあげるという、いやらしげな仕草をしなければいけないのね。
自分、なんだか、エッチっぽい。
でも穿いてみるとぴっちりしているものの、意外に窮屈でもなく平気でいられる位の締め付け感で、まあ、はける。
私は直感した。これは常用できる、とね。
「うん、これは、いい、貰った」
早速、女子タイツの上に靴下を穿きズボンを穿くと、男子タイツを穿いたときよりも、下半身にごわつき感もなく、いいかもしれない、的な気分なんです。
そうして私はそのまま妻と買い物にででみた。
ところが、ところが、である。
穿いてからわずか30分。これはどうもいけない。足首で終わっている男子タイツに慣れている男子な自分なので、どうも足先が気になるのである。なんだか足首からつま先がむずがゆいというか、暑いというか、気になる。タイツで覆われた足先に靴下を穿くからなのか、そもそも慣れない感覚だからなのか、ムズムズ、むず痒くなってきたのである。足首から下、靴下部分ね。
「なんか変」妻に話す。
するとそのうちに、穿くときに伸びるのをいいことに、腰の上まで持ち上げたはずの、なんて言うのかしら、胴の部分、パンティ部分?が、少しずつではあるけれどずり落ちて、腰骨でようやく止まっている状態なのね。「よく延びる」と言うことは「よく縮む」と同意義なのですね。お股もずり下がってきて、パンツの股とタイツの股の、いわゆる二重股。
ここ、買い物先のスーパーで、そっと妻にカミングアウト。てか、ギブアップ宣言。
「女子タイツ、むり!気持ち悪い、こいつは、いけない、たまんねえ!」
気持ち悪さの状態を説明すると、確かにそんな現象はあるようなのだが、すっかり慣れてしまったとのこと。
「アタシ、女てやつ○○年もやってるからねー」
おっしゃるとおりでございます。
女は、えらい!

帰宅後、あわてて脱いで、ふーっという大きなため息とともに、心底すっきりしましたとな。