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旅の終わりに見たものは

読書とお酒が好きで出好きのオラは、そのすべてを一回で叶えるため、先日4泊5日の行程で日本の東の辺りを、電車に乗って旅行してきました。
朝、目覚めた直後から、夜ベッドに潜り込むまで、手からお酒を放さない、そんな素敵な5日間。新幹線のなかでは常に、電子書籍の入ったタブレットを右手に、ビールを左手にという、常に読書し常に酔っていたという5日間。
なんだか、とってもいいでしょ、こんな旅行も。
あ、これまた旅行好きの嫁さんも一緒ね。

まず東京で前泊。そこから「はやぶさ」に乗って一路函館へ。生憎、函館市内は天候も悪く山には霧も掛かり、楽しみだった夜景見学も断念、それでもおしゃれな「スターバックス函館ベイエリア店」で、ゆっくりとお茶などし、満足のまま居酒屋突入、飲み過ぎつつ就寝。
翌朝は、暴慢な腹のまま、いくら丼など腹一杯食べた後、新幹線の乗り換えを繰り返して、山形県の山あいに建つ旅館に泊まりました。客室数18の、おもてなし自慢宿。確かに何の音も聞こえない、部屋の片隅にある小さな温泉風呂にそそがれる湯の音だけという、現代人には厳しすぎるほどの静かな部屋です
太宰治を気取って、「東京八景」の体(てい)で何か書こうとパソコン広げてみたりしたけれど、飲み過ぎからか特に何も浮かばず、「東京の、アパートから見る富士は、くるしい。」と入力しては「あ、これは東京八景ではなくて富嶽百景の一節だった」などと時を過ごし、翌朝にはすっかり純粋なピュアな心に戻りました。ちなみに富嶽は、ふがく、と読みます。さっき知りました。いままでずっと、ふごく、と読んでいました。
美味しい食事と名産のワイン、至り尽くせりのおもてなしを頂いて、嫁も満足し機嫌も良くなったところで、オラたち夫婦は、意気揚々とつぎのの目的地へ向かいました。

東京を経由して到着したのは熱海。
皆さん、笑わないでよ。
(これを読んでいる男の)あなただっていつもすかした顔して町を歩いてても、心のどこかには、こんなおふざけ施設見学してみたいと思ったことあるでしょ。
そう、秘宝館。熱海秘宝館!
ね、行ってみたいでしょ。
その日の目的地は、まさに熱海の秘宝館なんだけど、まずその前に予約しておいたマンモスホテルに向かいました。
な、なんと、そこで恐ろしい光景が!
チェックインしようとエントランスに入ったオレたち夫婦が見たのは、
ひしめき合う数百人のじじばば、間違い、人生の諸先輩方たち。丁度その日は社交ダンスのイベントがあったようで、これ以上ない位に着飾った高齢の御婦人達までもが加わり、ホテル全体を埋め尽くしていて、なんだか少し息苦しいくらい。若い人はただの一人もおらず。

さて秘宝館。
夕方行ってみました。
でも館内すべて撮影禁止と書かれていて、それじゃあつまんねえじゃねえか、オレは意を決して、愛想のない係のにいちゃんに、遠方より来訪した故、何とか館内を撮らせてくれないかと食い下がってみたものの、愛想ないまま、首は横に振られるのみ。やむなく入り口で嫁と二人、ぼんやりと記念撮影。
展示物はと言うと、一言で言うなら、お酒を飲んだおっさん集団が喜ぶ程度の、昭和感溢れる、アホらしいもの達といったところ。ここにある数々のアトラクションを、至って真面目に仕事として、作ったり維持管理したりする人たちがいるのだ、と言う新鮮な驚き。
このご時勢に、観光名所として堂々と存在できる施設ではないけれど、でも「もうじき消えてしまうかもしれない昭和遺産」と位置づけると、自分たち夫婦の姿とダブってしまい、出口をでたオラたちは少ししんみりしちゃった。

気を取り直して、そんな昭和遺産の皆さんが集っているホテルに戻って一泊したおらたち昭和遺産予備軍の夫婦は、翌日の朝、混む前にと早めに朝食会場へと出掛けたのです。
しかし、そこで見た光景はまたしても、生きるとは何かを考えさせられる光景だったのです。
丁度オープンしたばかりの会場では、食事の並んだビュッフェテーブルのまわりを幾重にも囲む、押すな押すな並べ並べと大騒ぎの諸先輩たち。阿鼻叫喚、地獄絵図、おおげさか。
老いてなお食べることに拘泥する事の意味を考え始めてしまったオラは、すっかり食欲も失せ、コーヒーだけ持って、テーブルに戻ったのです。げんなり。
嫁さんはしっかりと彼らに溶け込んでがっつり朝食を食べてました。凹むオラを見て「男子ってホントはメンタル弱いから、あたいら女子がしっかりしていないとね」などと、どこぞやの女芸人がテレビの中で言ったようなセリフ。
ホテルの出際に係員に聞くと、土日は小さな子供を連れた家族連れが多いけれど、週が始まると、人生の先輩たちのご利用が多くを占めるとのこと。だから朝見た異様な食事風景はご老人たちに限ったことではなくて、土日は若夫婦がこの有様を見せているのかもしれません。それでもね、いつも考えすぎなオラだからかもしれないけれど、彼らが体現してくれた「それでも食べ続けるとは何なのか」と言う問いに対しての一つの絵図に、オラ達夫婦が近未来の自分が見せるだろう姿を前もって見せてくれたのかもしれない、と考えこんでしまったのである。
高齢化社会、うーーーん、もうじき突入するのかと思うと、おそろしいっす。
そうして、またまたオラはいつもの癖で、「彼らも、生きるのが、苦しいにちがいない。熱海から見る富士は、くるしい」などと太宰治風につぶやいたりもしました。

ただ、あの、旅の終わりに見た朝食会場の、食事が乗ったテーブルに群がる先輩たちを見て、オラはなんだか切なく悲しくなってしまったのは、今も印象として残っているんですよ。

こうして、お酒と読書と電車の旅は、前半楽しかったような、後半ちょっぴり切なかったような、意味深なものになってしまいました。