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【車両保険】自動車が盗まれたことは誰が立証すべき?

1 事例

【事例(最判平成19年4月17日参照)】
 Xは、Y保険会社との間で、Xが所有すする車両を被保険自動車とする車両保険契約を締結していました。
 この車両保険の約款では、「被保険自動車の盗難」によって生じた損害に対して保険金を支払う旨規定されています。他方で、保険契約者、被保険者などの故意によって生じた損害に対しては保険金を支払わない、とも規定されています。
 Xが被保険自動車をマンション駐車場に駐車し、外国に出かけていたところ、その最中にこの自動車が何者かによって駐車場から持ち去られました。
 Xが車両保険金の請求をしたところ、Y保険会社は、Xと自動車を持ち去った人物が通謀して盗難を偽装したと主張し、車両保険金を支払いません。
 Xが自動車を持ち去った人物と通謀しているのかどうか不明な場合、保険金の請求は認められるのでしょうか。

2 立証責任

 ⑴ 立証責任とは?

 冒頭にあげた事例では、被保険自動車を持ち去った人物とXが通謀していたのかどうかわからない、ということになっています。

 民事訴訟では、証拠を調べても真偽不明の事実があるときに、「立証責任(証明責任)」という概念が顔を出します。

 立証責任(証明責任)とは、

ある事実が真偽不明のときにその事実の存在または不存在が仮定されて裁判がなされれることにより当事者の一方が被る危険ないし不利益(「重点講義民事訴訟法(上)第2版補訂版」518頁)

のことを言います。

 ごく簡単に言うと、民事訴訟の当事者は、自分が立証責任を負っている事実について立証できなければ、敗訴してしまう、ということです。

 ⑵ 立証責任を負うのはどちらの当事者?

 では、民事訴訟の原告と被告は、それぞれどのような事実について立証責任を負っているのでしょうか?

 ごく大雑把に言うと、民事訴訟の当事者は、自分にとって有利な法律効果を発生させるための法律要件を立証しなければなりません。

 例えば、不動産を売ったので代金を支払え、と言って民事訴訟を起こした原告は、不動産を○○円で売った、という事実を立証できなければ負けてしまいます。
 また、その裁判において被告が、不動産は買ったが、代金を支払ったので代金を支払う必要は無い、と述べるのであれば、代金を弁済した事実を立証できななければ負けてしまいます。

3 車両保険金を請求する場合はどうなる?

 ⑴ 何が問題になっているのか?

 冒頭の盗難を理由とする車両保険金の請求事件ではどのようなるでしょうか。

 保険約款上、「被保険自動車の盗難」によって生じた損害に対して保険金を支払う、という規定が設けられています。
 一般に盗難とは占有者の意思に反して第三者が財物の占有を移転させたことを言います。
 そのため、Xが、自分の意思に反して自動車を持ち去られたこと、すなわち犯人と通謀していないこと、を立証しなければならないのでしょうか。

 他方、保険約款上、保険契約者、被保険者などの故意によって生じた損害に対しては保険金を支払わない、とも規定されています。
 そのため、Y保険会社が、Xの故意による自動車の持ち去りであること、すなわち犯人と通謀したこと、を立証しなければならないのでしょうか。

 ⑵ 最高裁はどう判断した?

 この問題については、最高裁は、平成19年4月17日判決で次のように判断しています。

一般に盗難とは,占有者の意に反する第三者による財物の占有の移転であると解することができるが,……被保険自動車の盗難という保険事故が保険契約者,被保険者等の意思に基づいて発生したことは,本件条項2により保険者において免責事由として主張,立証すべき事項であるから,被保険自動車の盗難という保険事故が発生したとして本件条項1に基づいて車両保険金の支払を請求する者は,「被保険者以外の者が被保険者の占有に係る被保険自動車をその所在場所から持ち去ったこと」という外形的な事実を主張,立証すれば足り,被保険自動車の持ち去りが被保険者の意思に基づかないものであることを主張,立証すべき責任を負わないというべきである。

 まとめると、

保険会社側において、自動車の持ち去りが被保険者の意思に基づかないものであることについて、立証責任を負う
 →Y保険会社は、Xが自動車の持ち去り犯人と通謀していたことを立証できなければ敗訴する。

・被保険者側は、「被保険者以外の者が被保険者の占有に係る被保険自動車をその所在場所から持ち去ったこと」という外形的な事実についてのみ立証責任を負う。
 →Xは、第三者が被保険自動車を持ち去ったことを立証すればよく、Xと第三者が通謀していなかったことを立証する必要は無い。

ということになります。

 最高裁判例上、立証責任の分配は以上のように判断されていますが、損害保険会社の調査能力は非常に高く、実際に不正請求をすることは非常に困難であると思います。
 私も相当数の不正請求事案の資料を見たことがありますが、かなり綿密な調査がなされていることが多いです。


 今回の記事は以上です。
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