【交通事故・保険】搭乗者傷害保険が支払われる場合/支払われない場合

1 搭乗者傷害保険とは

 自動車保険というと、対人賠償責任保険や対物賠償責任保険のように、交通事故を起こした際に、相手方(被害者)に対して支払う損害賠償責任を担保する保険が思い浮かびます。

 しかし、自動車保険には、人身傷害保険や車両保険など、交通事故によって被保険者自身に生じた損害を穴埋めするための保険も存在します。

 このように被保険者自身の人身損害を補償するための保険の中に、搭乗者傷害保険というものが存在します。

2 搭乗者傷害保険の被保険者

 保険の補償を受ける人や保険の対象となる人のことを「被保険者」と言います。
 この被保険者に該当しなければ、保険金を受け取ることはできません

 搭乗者保険の被保険者は、被保険自動車の正規の乗車装置または当該装置のある室内(隔壁等により通行できないように仕切られている場所を除く)に搭乗中の者、とされています。

 そのため、乗車定員オーバーであっても、正規の乗車装置に搭乗していれば、被保険者に該当します。

 他方、トラックの荷台に乗車中の場合、荷台は正規の乗車装置ではないので、保険金が支払われません

 また、被保険自動車に搭乗中であっても、極めて異常かつ危険な方法で搭乗している場合、被保険者に含まれません
 例えば、箱乗り(車の窓枠に腰を掛け、その状態で上半身を外に出す乗り方のこと)をしている最中に、事故で負傷しても、搭乗者傷害保険金は支払われません

3 車両から下車した直後の交通事故

 「被保険自動車に搭乗中」と認められるかの限界事例として、最高裁平成19年5月29日判決、というものがあります。

【事例】
・Aは高速道路で自損事故を起こし、走行車線と追越車線とにまたがった状態で停車。
・Aが車両から降りて路肩付近に避難したところ、その直後に大型貨物自動車に接触されて転倒。
・Aはさらに後続の大型貨物自動車に轢かれて死亡。
・Aの相続人Xらが、Y保険会社に対して、搭乗者傷害条項の死亡保険金を請求した。

 最高裁は、次のように述べ、この事案においては、「被保険自動車に搭乗中」と認められる、と判断しています。

 前記事実関係によれば、……Aは、本件自損事故により、本件車両内にとどまっていれば後続車の衝突等により身体の損傷を受けかねない切迫した危険にさらされ、その危険を避けるために車外に避難せざるを得ない状況に置かれたものというべきである。さらに、前記事実関係によれば、後続車にれき過されて死亡するまでのAの避難行動は、避難経路も含めて上記危険にさらされた者の行動として極めて自然なものであったと認められ、上記れき過が本件自損事故と時間的にも場所的にも近接して生じていることから判断しても、Aにおいて上記避難行動とは異なる行動を採ることを期待することはできなかったものというべきである。そうすると、運行起因事故である本件自損事故とAのれき過による死亡との間には相当因果関係があると認められ、Aは運行起因事故である本件自損事故により負傷し、死亡したものと解するのが相当である。

 このように、この最高裁判例は、

① 第2事故に至るAの行動が不可避的であり、自然であること

② 第1事故と第2事故が時間的・場所的に近接していること

を根拠に、第1事故と負傷・死亡の結果との間に相当因果関係があるとして、保険金の支払対象になるとしています。

 実際に同様の事案が起きたときには、①や②などの要素を考慮し、相当因果関係が有るのか無いのかを基準に保険金の請求が可能かを判断されることになると思われます。

 今回の記事は以上です。

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