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世界標準の経営理論:第1部経済学ディシプリンの経営理論

 久しぶりに「世界標準の経営理論」を読み進めたので、「第1部 経済学ディシプリンの経営理論」の中で、SCP理論について、弁護士業界に当てはめつつご紹介します。

 なんと、前回の記事を投稿してから、約4か月も経過してしまっています(笑)他にも、読まなければならない本が色々あったためでしょうか?

1 完全競争の条件

 SCP理論(structure-conduct-performance(構造ー遂行―業績))は、端的に言えば「構造的に儲かる業界と、儲からない業界の違い」を説明する理論です。

 SCP理論を考えるにあたっては、「完全競争」について理解する必要があり、その条件は、以下の5つSCP理論との関係では条件1から3が重要)とされています。

条件1市場に無数の小さな企業がいてどの企業も市場価格に影響を与えられない
条件2-その市場に他企業が新しく参入する際の障壁(コスト)がない。その市場から撤退する障壁もない。
条件3企業の提供する製品・サービスが、同業他社と同質である。すなわち、差別化がされていない
条件4-製品・サービスをつくるための経営資源(技術・人材など)が他企業にコストなく移動できる
条件5ある企業の製品・サービスの完全な情報を、顧客・同業他社が持っている。

 条件1から3の条件を満たすと、「完全競争」の状態に至ります。
 その帰結として、「企業の超過利潤がゼロになる」、すなわち、ほとんど利益が上げられない状態になってしまいます。

 他方、条件1から3の真逆の条件を満たすと、「完全独占」の状態に至ります。
 その帰結として、独占企業が、自社の超過利潤を最大化できるよう、自分で生産量や価格をコントロールできる状態になります。

2 どの業界も「完全競争」と「完全独占」の間のどこかにある

 完全競争も完全独占も、理論的な仮想状況に過ぎません。

 ですが、どの業界も、完全競争と完全独占の間のどこかにいることになります。

 そして、SCP理論の骨子は、「完全競争から離れている業界ほど(=すなわち独占に近い業界ほど)、安定して収益性が高い(=すなわち構造的に儲かる業界である)」ということになります。

3 弁護士業界の状況

 では、弁護士の業界はどうなのでしょうか?

 ⑴ 条件1

 まず、次のリンクをご覧いただければわかるように、東京では数百人の弁護士が在籍する巨大ローファームも存在しますが、そのほかの地域では、多くとも数十人の弁護士がいれば、地域で最大級の法律事務所となります。

https://www.jurinavi.com/market/jimusho/ranking/index.php?id=254

 千葉県内でも、弁護士1人、2人で構成される法律事務所は多数存在します。

 市場に無数の(法律事務所の絶対数が少ないので、「無数」という評価は微妙かもしれませんが)小さな企業がいる状態と言ってよいように思います。市場価格に影響を与えられる法律事務所が存在するという実感もありません。

 ⑵ 条件2

 弁護士業界の参入障壁ですが、司法試験を通過しなければならない、という高い参入障壁があります。

 他方で、司法試験の合格者数は、一昔前に比べて増加していますので(最近では減少しているようですが)、参入障壁が低くなりつつはあります。

 ⑶ 条件3

 あまりよく知られていないかもしれませんが(知られていないことが問題なのですが)、法律事務所や弁護士によって、提供するサービスの内容は全く異なります

 法律事務所の組織力IT化の度合い連絡手段(郵便・電話・FAX・メール・ウェブ会議・チャットなど、どのような手段を取るか)、法律相談の実施方法(対面のみか・電話やウェブ会議も可能か、など)、弁護士の取り扱い分野習熟度レスポンスの速さなど、様々な点で法律事務所や弁護士によって違いがあります。

 ⑷ 小括

 このように考えると、依然として高い参入障壁があり、他の法律事務所や弁護士との差別化が可能な弁護士業界は、まだまだ安定した収益を上げやすい業界と言えるかもしれません。

 そんなの当たり前だろと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、弁護士の数がどんどん増えて、最近ではそうでもありません。

4 差別化戦略の重要性

 SCP理論の一般論に戻ります。

 完全競争の条件1から3に立ち返って考えると、高い超過利潤を得たい企業に重要な戦略は、「自社のグループの特性を、なるべく他グループと似せない」ということになります。

 すなわち、「差別化戦略」が極めて重要ということです。

5 法律事務所の課題:差別化とその見える化

 ⑶③で述べた通り、実は、法律事務所ごと、さらには所属している弁護士ごとに、提供するサービスの中身は全く異なります。また、各々、より良いサービスが提供できるよう努力しています。

 つまり、どのような点で差別化ができるのかを考え、それを実践していくことが重要です。 

 他方で、法律事務所がどのようなサービスを提供しているのか、その違いが外からはわかりにくいことも課題です。

 1件1件の事件をしっかりと解決することや自己研鑽を継続してレベルを高めていくことも重要ですが、事務所の組織力や、実績、提供できるサービス、ポリシーなどについて、他の法律事務所や弁護士とはどう違うのか、差別化ポイントを見える化していくことも重要だと考えました。


 今回の記事は以上です。

 ご覧いただきありがとうございました。

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