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民事再生申立て~開始決定まで(その3)【中小企業の自主再建型民事再生】

 本稿では、自主再建型の民事再生手続の一連の流れを、
① 民事再生手続きを選択するに至るまで
② 民事再生申立ての準備
③ 民事再生手続開始決定
④ 財産評定・債権調査
⑤ 再生計画案を作成し認可されるまで
⑥ 再生計画の遂行・終結

の6つの場面に分けて解説しています。
 現在は、③民事再生手続開始決定について解説をしており、これをさらに、
① 申立て直後の対応
② 債権者説明会
③ 開始決定によりどのような効果が生じるか

の3つのパートに分けて解説をしています。
 今回は、③開始決定の効果についてです。

 次のレナウンのホームページの5月15日に関する部分を解説している、ということになります。

1 原則:再生債務者は財産の管理処分権や業務遂行権を失わない

 民事再生手続きの大きな特徴ですが、原則として、再生債務者は、再生手続開始決定後も財産の管理処分権や業務遂行権を失いません。そのため、民事再生手続は、DIP型と呼ばれています。

(再生債務者の地位)
第三十八条 再生債務者は、再生手続が開始された後も、その業務を遂行し、又はその財産(日本国内にあるかどうかを問わない。第六十六条及び第八十一条第一項において同じ。)を管理し、若しくは処分する権利を有する。

 ただし、一定の重要な行為については、監督委員の同意や裁判所の許可が必要になることもあります。 

 レナウンのように、裁判所から管理命令というものを発令されると、財産の管理処分権や業務遂行権を失うことになります。

(管理命令)
第六十四条 裁判所は、再生債務者(法人である場合に限る。以下この項において同じ。)の財産の管理又は処分が失当であるとき、その他再生債務者の事業の再生のために特に必要があると認めるときは、利害関係人の申立てにより又は職権で、再生手続の開始の決定と同時に又はその決定後、再生債務者の業務及び財産に関し、管財人による管理を命ずる処分をすることができる。

2 その他の再生手続開始決定の効果

 再生手続開始決定により、例えば、次のような効果が生じます。

⑴ 再生債権の弁済禁止
 再生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権で、共益債権や一般優先債権(これらの意味は、後ほど解説します)に該当しない
ものを再生債権と言います。
 再生債権については、再生計画にしたがって、将来弁済を受けることになります。そのため、再生債権者が再生債務者に対して個別に権利行使をすることはできなくなりますし、再生債務者も弁済を禁止されます。

 レナウンのホームページで

手続き開始決定により、開始決定前の原因に基づいて発生した債務は、再生債権となり弁済が禁止されます。

と記載されているのは、このことです。

 弁済が禁止されているのに弁済を行うと、その程度によっては管理命令が発令される可能性もあるのでよく注意しましょう。

⑵ 強制執行の禁止等
 
再生債務者の財産に対する再生債権による強制執行などは禁止され、既に行われている強制執行などは中止されます。

(他の手続の中止等)
第三十九条 再生手続開始の決定があったときは、破産手続開始、再生手続開始若しくは特別清算開始の申立て、再生債務者の財産に対する再生債権に基づく強制執行等若しくは再生債権に基づく外国租税滞納処分又は再生債権に基づく財産開示手続若しくは第三者からの情報取得手続の申立てはすることができず、破産手続、再生債務者の財産に対して既にされている再生債権に基づく強制執行等の手続及び再生債権に基づく外国租税滞納処分並びに再生債権に基づく財産開示手続及び第三者からの情報取得手続は中止し、特別清算手続はその効力を失う。

 ただし、共益債権や一般優先債権に基づく強制執行等や滞納処分に基づく差し押さえは中止の対象になりません。

⑶ 訴訟の中断
 既に行われている再生債務者の財産関係の訴訟手続きのうち、再生債権に関する訴訟は中断します。

(訴訟手続の中断等)
第四十条 再生手続開始の決定があったときは、再生債務者の財産関係の訴訟手続のうち再生債権に関するものは、中断する。

 再生債権が存在するか否かや、存在するとしてその金額については、再生手続きの中で、別途確定することになります。

3 再生手続開始決定後も弁済が認められる債権

 以下の債権については、再生手続開始決定後も弁済が認められています。

⑴ 共益債権
 再生手続は開始後の原因に基づいて発生した債権など、民事再生法119条に該当する債権を共益債権と言います。
 共益債権については、再生手続きによらずに、再生債権に先立って、随時弁済することとされています。

(共益債権の取扱い)
第百二十一条 共益債権は、再生手続によらないで、随時弁済する。
2 共益債権は、再生債権に先立って、弁済する。

⑵ 共益債権化の承認
 再生手続開始申立て後、開始決定までの間の取引などにより生じる債権は、申立直後に発令される弁済禁止保全命令の対象とはなりません。

※弁済禁止保全命令については、こちらの記事をご参照ください。※


 他方で、この債権は、再生手続開始後、共益債権にも該当しません。
 そのため、再生債権に該当してしまい、再生手続開始決定後の弁済を禁止されてしまいます。
 しかし、これでは、申し立て後、再生手続開始決定までの間に再生債務者と取引きをする取引先は現れず、事業が立ち行かなくなってしまいます。
 そのため、共益債権化の承認、という手続きが認められ、これが認められれば、申立後、再生手続開始決定前に発生した債権も、弁済可能となります。

(開始前の借入金等)
第百二十条 再生債務者(保全管理人が選任されている場合を除く。以下この項及び第三項において同じ。)が、再生手続開始の申立て後再生手続開始前に、資金の借入れ、原材料の購入その他再生債務者の事業の継続に欠くことができない行為をする場合には、裁判所は、その行為によって生ずべき相手方の請求権を共益債権とする旨の許可をすることができる。

⑶ 一般優先債権
 一般の先取特権その他の優先権がある債権を、一般優先債権といい、再生手続によらずに随時弁済することが認められています。

(一般優先債権)
第百二十二条 一般の先取特権その他一般の優先権がある債権(共益債権であるものを除く。)は、一般優先債権とする。
2 一般優先債権は、再生手続によらないで、随時弁済する。

 たとえば、手続き開始前の労働の対価に相当する労働債権などです。


 途中となってしまいましたが、今回は以上です。

 今回は、

・原則として再生債務者はそのまま事業を継続できること
・再生手続開始決定により、再生債務の弁済が禁じられるなど一定の効果が生じること
・共益債権や一般優先債権など、再生手続開始決定後も弁済が許される債権が存在すること

について解説をしました。

 次回は、

・例外的に弁済が認められる再生債権
・再生手続開始決定前から存在する契約関係をどのように処理するのか

について解説する予定です。

 記事をご覧いただきありがとうございます。
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