民事再生申立て~開始決定まで(その4)【中小企業の自主再建型民事再生】
今回は、③開始決定の効果の続きです。前半では、
・原則として再生債務者はそのまま事業を継続できること
・再生手続開始決定により、再生債務の弁済が禁じられるなど一定の効果が生じること
・共益債権や一般優先債権など、再生手続開始決定後も弁済が許される債権が存在すること
を解説しました。
今回は、
・例外的に弁済が認められる再生債権(少額債権の弁済)
についてです。
1 少額債権の弁済
前回述べた通り、再生債権は、再生手続開始後、原則として、再生計画で定める弁済条項によらなければ、弁済等の債権を消滅させる行為をすることが禁止されます(民事再生法85条1項)。
しかし、あらゆる再生債権について、この原則を貫き通すと、再生手続を円滑に進められなくなったり、取引先の協力が得られず事業の継続が困難になったりしかねません。
そのため、少額な債権については、以下の2つの場面において、例外的に再生計画によらずに弁済が可能とされています。
① 再生手続の円滑な進行のための弁済許可(民事再生法85条5項前段)
民事再生手続を進めている最中、債権者に対して通知をしたり、再生手続や再生計画案について債権者に対して説明をしたりします。
しかし、債権額が少ない債権者についてもすべてこの対応をしていると、通知や説明をする債権者の数がいたずらに多くなり、再生手続が遅滞することになりかねません。
他方、少額の債権者については、金額が小さいので再生手続事態に対する関心が低かったり、少額の債権者に弁済をしても、他の債権者への弁済額にそれほどの影響が無かったりします。
そのため、裁判所が許可すれば、再生債務者が少額債権者に対して弁済を行い、債権者数を減らして再生手続の運営を円滑かつ迅速に進行できるようにする、という制度が設けられました。
この弁済の対象となる「少額」とはどの程度の金額を言うのでしょうか。
具体的な金額が法律などで決まっているわけではなく、再生債務者の事業規模、負債総額、資金繰り等の弁済能力、想定される再生計画案の内容等を総合的に考慮して判断する、と言われています。
実際には、10万円以下の債権を少額債権とするケースが多いようですが、事案によっては、1000万円以下の債権を少額債権としたケースもあるようです。
注意点としては、少額債権を直ちに全額弁済しても資金繰りに問題がない事案でなければ、この少額債権の弁済許可が認められにくいことです。
弁済許可の申立てをするにあたっては、資金繰表を精査し、少額債権を弁済しても資金不足に陥ることがないかを確認しましょう。
② 事業継続に対する著しい支障を回避するための弁済許可(民事再生法85条5項後段)
少額債権者の中にも重要な取引先がおり、その債権者に早期に弁済しなければ再生債務者の事業の継続に著しい支障をきたしてしまう、ということがあるかもしれません。
このような場合、少額債権者に対して弁済をすることで、結果として、弁済しない場合と比較して弁済率が高まるなど、債権者全体の利益になることがあります。債権者全体の利益になるのであれば、弁済を許しても差し支えないと考えられますね。
そこで、裁判所が許可すれば、一定の債権の種類や属性に着目して、債権の弁済を可能にするという制度を設けました(民事再生法85条5項後段)。
条文上、「事業の継続に著しい支障を来すとき」という要件を満たさなければ、裁判所は弁済を許可しないこととされています。
この要件に該当すると緩やかに認めてしまうと、強硬な姿勢を示した債権者が優遇されやすくなってしまうなど、債権者間の平等や手続きの公正さがされてしまいます。
そのため、この要件は、当該債権者との取引継続の必要性の程度、代替的な取引先確保の可能性の有無、当該債権者が少額債権の弁済を求める合理性の有無等を総合的に考慮したうえ、慎重に判断するものとされています。
また、85条5項後段の「少額の再生債権」は、一部の債権者に対して弁済をすることによる不公平が一定の範囲にとどまるのであれば、85条5項前段の場合の「少額の再生債権」よりも大きな金額になることを許容されている、と解釈されています。
今回は、以上です。
再生手続外での弁済禁止の原則の例外としての少額債権の弁済許可制度、何となくご理解いただけたでしょうか。
次回は、本当であれば今回取り扱う予定であった
・再生手続開始決定前から存在する契約関係をどのように処理するのか
について解説をしようと思います。
記事をご覧いただきありがとうございました。
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