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民事再生申立て~開始決定まで(その5)【中小企業の自主再建型民事再生】

 今回は、③開始決定の効果の続きです。直近2回で、

・原則として再生債務者はそのまま事業を継続できること
・再生手続開始決定により、再生債務の弁済が禁じられるなど一定の効果が生じること
・共益債権や一般優先債権など、再生手続開始決定後も弁済が許される債権が存在すること
・再生手続外での弁済禁止の原則の例外としての少額債権の弁済許可制度

について解説をしました。

 今回は、

・再生手続開始決定前から存在する契約関係をどのように処理するのか:双方未履行の双務契約の取り扱いについて

について解説をします。

1 そもそも双務契約とは?

 再生手続開始決定による契約関係の処理については、双方未履行の双務契約をどのように取り扱うのか、というのが一番重要な問題になります。

 といわれても、そもそも双務契約とは何だ?と思われますよね。
 辞書的には、

 当事者双方が互いに対価的な意義を有する債務を負担する契約を双務契約といい、そうでないものを片務契約という

とされています。

 例えば、建物建築請負契約の場合、請負人は建物工事を完成させる債務を負う一方、注文者は請負代金を支払う債務を負っています。売買契約の場合、売主は目的物を引き渡す債務を負う一方、買主は代金を支払う義務を負っています。このような契約を双務契約と言います。

 対義語である片務契約の代表例は、贈与契約です。贈与契約は、贈与者が目的物を引き渡す債務を負うだけで、受贈者は代金を支払うなどの債務は追っていません。

 双方未履行の双務契約とは、このような双務契約において、どちらの当事者も互いの債務を未履行な状態を指します。

2 双方未履行の双務契約はどう取り扱われる?

 双方未履行の双務契約をどう取り扱うかについては、民事再生法49条1項に定められています。

(双務契約)
第四十九条 双務契約について再生債務者及びその相手方が再生手続開始の時において共にまだその履行を完了していないときは、再生債務者等は、契約の解除をし、又は再生債務者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することができる。

 再生債務者が、契約の解除をするか、自身の債務を履行して相手にも債務の履行を請求するか、選択することができることになっています。

 再生債務者は、事業を再生するという観点から、解除を選択するのと履行を選択するのとどちらが適切かを判断します。

3 債務の履行を選択するとどうなる?

 再生債務者が履行を選択すると、双務契約の効力が維持されます。

 契約の相手方は債務を履行せざるを得ないのに、相手方が再生債務者に対して有する債権は再生債権となり、再生計画に従って圧縮されたうえ分割弁済しか受けられないと不公平です。そのため、相手方が再生債務者に対して有する債権は共益債権となります(民事再生法49条4項)。

4 第一項の規定により再生債務者の債務の履行をする場合において、相手方が有する請求権は、共益債権とする。

 再生債権や共益債権の意義については、下記の記事で解説しました。

4 解除を選択するとどうなる?

 再生債務者が双方未履行の双務契約を解除すると、相手方に損害が生じることがあります。この場合、相手方は再生債務者に対して損害賠償請求をすることができますが、この損害賠償請求権は再生債権となってしまいます(民事再生法49条5項・破産法54条1項)。

 他方、再生債務者が、相手方から一部反対給付を受けているときがあります。再生債務者が契約を解除すると、相手方から受け取っていたものは返却しなければなりません。その反対給付が既に再生債務者の手元に残っていない場合には、金銭にして返還しなければなりません(価額返還請求権)が、この価額返還請求権は共益債権となります(民事再生法49条5項・破産法54条1項)。

5 破産法第五十四条の規定は、第一項の規定による契約の解除があった場合について準用する。この場合において、同条第一項中「破産債権者」とあるのは「再生債権者」と、同条第二項中「破産者」とあるのは「再生債務者」と、「破産財団」とあるのは「再生債務者財産」と、「財団債権者」とあるのは「共益債権者」と読み替えるものとする。
【破産法】
第五十四条 前条第一項又は第二項の規定により契約の解除があった場合には、相手方は、損害の賠償について破産債権者としてその権利を行使することができる。

5 再生債務者がどちらも選択しない場合は?(相手方の催告権)

 再生債務者がどちらも選択しようとしないと、相手方としては、どうしてよいかわからない状態となってしまいます。
 そのため、相手方が、再生債務者に対して、解除するか履行の請求をするのか、相当の期間内に確答するよう催告することができるとされています。再生債務者がその期間内に確答しないと解除権を放棄したものとみなされます(民事再生法49条2項)。

2 前項の場合には、相手方は、再生債務者等に対し、相当の期間を定め、その期間内に契約の解除をするか又は債務の履行を請求するかを確答すべき旨を催告することができる。この場合において、再生債務者等がその期間内に確答をしないときは、同項の規定による解除権を放棄したものとみなす。

 破産法でも同様の相手方の催告権の制度がありますが、破産法の場合は、破産管財人が確答しないと、契約を解除したものとみなされます(破産法53条2項)。

2 前項の場合には、相手方は、破産管財人に対し、相当の期間を定め、その期間内に契約の解除をするか、又は債務の履行を請求するかを確答すべき旨を催告することができる。この場合において、破産管財人がその期間内に確答をしないときは、契約の解除をしたものとみなす。

 民事再生は、再建型の手続きであるため、契約関係を継続させる方向に向かいますが、破産は、清算型の手続きであるため、契約関係を解消させる方向に向かうため、このような違いが生じています。

6 解除できない場合

 双方未履行の双務契約であっても、再生債務者が解除を選択できない場合があります。

 例えば、再生債務者が賃貸人(貸す側)、相手方が賃借人(借りる側)であって、賃借人が賃借権について第三者対抗要件を具備している場合です(民事再生法51条、破産法56条)。

(双務契約についての破産法の準用)
第五十一条 破産法第五十六条、第五十八条及び第五十九条の規定は、再生手続が開始された場合について準用する。この場合において、同法第五十六条第一項中「第五十三条第一項及び第二項」とあるのは「民事再生法第四十九条第一項及び第二項」と、「破産者」とあるのは「再生債務者」と、同条第二項中「財団債権」とあるのは「共益債権」と、同法第五十八条第一項中「破産手続開始」とあるのは「再生手続開始」と、同条第三項において準用する同法第五十四条第一項中「破産債権者」とあるのは「再生債権者」と、同法第五十九条第一項中「破産手続」とあるのは「再生手続」と、同条第二項中「請求権は、破産者が有するときは破産財団に属し」とあるのは「請求権は」と、「破産債権」とあるのは「再生債権」と読み替えるものとする。
【破産法】
(賃貸借契約等)
第五十六条 第五十三条第一項及び第二項の規定は、賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利を設定する契約について破産者の相手方が当該権利につき登記、登録その他の第三者に対抗することができる要件を備えている場合には、適用しない。

 賃借人としては、賃貸人の再生手続開始という、自身には全く帰責性のない事情により賃貸物件から出ていかざるを得なくなるというのは、不合理であるためです。

7 まとめ

 以上のように、再生債務者は、双方未履行の双務契約を履行するのか、解除するのか選択することができます。

 再生債務者としては、どちらの選択をした方が事業再生のために有益かという観点で、選択をすることになります。

 以上、5回にわたって③開始決定の効果の続きについて解説をしましたが、何となくご理解いただけたでしょうか。

 次回からは、④財産評定・債権調査について解説をします。


 記事をご覧いただきありがとうございました。

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