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愛は、時空を超えて

私の上司が20年以上前に出会った『彼』。
『彼』の話を聞いて国も年齢も時代も違う私が愛を受け取った話。

上司は、50代男性。
嫌味もなく、スマートで、ジョークも交わせるイケてる人だ。

ある時、営業同行することになった。
滅多にないタイミングなので、私は密かに道中の車内でどんなことを話そうかワクワクしていた。

そのスマートな身のこなしの裏側が知りたかったからだ。

イケてる上司は、車内で仕事の野暮な話はせず、夫婦の関係性、妻と自分の考え方の差分について、育児について、自分の身の上話などたくさんの話を楽しく可笑しく私に話してくれた。

上司は社内でも評判なので、こういうオープンマインドな所が人から好かれるんだろうなと思った。
心のメモに「オープンマインドは人との関係を良好にする」と書き込んだ。


その中で旅の話になった。
今は、コロナで行けないけど、旅が好きなのだそうだ。

元々仕事で海外に2年ほど住んでいた期間もあると。やはりイケている。

「海外に行くと、本当に恥ずかしい思いを沢山するよ。知らないことが多すぎて。たくさん失敗してきた。日本のこと海外の方に聞かれても何にも答えられないんだよね。本当によく失敗したなぁ」

イケている人の裏側が知りたい私は、イケている理由がどんどん明らかになって嬉しかった。
きっと失敗と成長を繰り返して、多くの学びをしたから今の上司がいるのだなと。

ふと、上司が思い出したようにエピソードを話してくれた。

上司が就職前の話だ。

上司が大学生時代はバブル真っ只中。
同級生がバンバン内定もらっているそばで、上司は「何かが違う…」と思ってた。

地方住みだったが、本当は東京に行ってやりたいことがあった。でも、家の都合でどうしてもそれが叶わなかった。

どうしようもないが、すんなり受け入れることもできなかった。

「やりたいことって何か?」
「このまま就職していいのか?」
「自分は何者なんだろう?」

ぐるぐる考えていた。

20代前半の若者なら誰しもある話と言われたらそうかもしれないが、自分の存在意義が揺らいだ時、明確な答えをすぐに出せる人は少ないのではないだろうか。

そこで、海外に行った。
秋入社が可能な企業の内定が出ていた。
大学卒業からの半年、海外のボランティアのプロジェクトに参加する形で。

よく分からないけど、とにかくこの感情を抱いたまま日本に居続けるのが辛かった。

様々な国の人が集まるプロジェクト。
主に東欧諸国の人が多く参加していた。
その中にピーターがいた。

彼は、医師を目指している人だった。
パートナーの女性と一緒に参加をしていた。
パートナーの女性との間には、何人か養子として子供を迎えていた。

『自分と彼女(パートナー)の間に子どもをもうけて、他の子と差ができても嫌だから、今は結婚せずパートナーという形をとってるんだ』

今から20年も前だし、日本で生活していた上司はピーターの考え方にカルチャーショックを受けた。

「そんなことできるんだ!」


ある日、ピーターはノートを書いていた。
「何書いてるの?」と聞くと、
『これはドリームノートさ』とピーターは答える。
「ドリームノート?」
『今日とても素敵な夢を見てね。その夢を子どもたちに物語として聞かせてあげようと思ってさ』

かっこよすぎてピーターが眩しかった。


ある晩、集まっているボランティアたち全員でナイトウォーキングをすることになった。

真っ暗闇で、何キロも歩く。

そんな時に靴擦れか何かで足を痛めてしまって上司はみんなについていけず、どんどん遅れをとっていった。

あたりは暗くて見知らぬ土地で不安になっていった。

そんな上司にピーターは自分の足を緩めて、ずっと声をかけ続けて一緒に歩いてくれた。
『コウタ(上司:仮名)、大丈夫大丈夫。ゆっくりでいいよ。ゆっくりでいい』

何度も何度も歩いては止まり、歩いては止まり、そのたびにピーターはずっと励ましてくれた。

暗闇の中だったけど、ピーターがいたから何度立ち止まっても歩き出せた。

・・・


そんなエピソードを話していた上司がふと、
「彼は…本当に愛の人だったなぁ」ポツリと言った。


その言葉を聞いて、急に私は泣きそうになった。

ピーターは、上司に感謝して欲しくて寄り添っていたわけではない。
ましてや、何年も経って見知らぬ私に上司が自分のエピソードを話すだろうなんて思ってもない。

ただ、人に対して愛をずっと与えて、その愛で救われている人がいて、その伝わった愛をまた違う誰かが受け取っている。
その事実に泣きそうだった。



上司も帰国するときには、出国前のモヤモヤなんて何もなかった。何を小さいことを悩んでいたんだろうって思えるようになっていた。
ピーターとの出会いが価値観を変えるきっかけになっていた。

「愛を与えてもらった」

上司はその後も少し遠い目をして言った。


ピーターとは、帰国後に何度か文通をしたっきりになっているらしい。
ネットが普及して名前で色んなSNSを検索したけど、出てこないからどこで何をしているかは分からないみたい。


今、ピーターはどこにいるか分からない。
けど、上司の中にはピーターがいて、私の中にもピーターが優しく存在している。

ありがとうピーター。
あなたのおかげで、上司は悩みから抜け出して輝いてるよ。

あなたが愛を上司に与えてくれたから、上司の周りにいる人もたくさん愛を感じているよ。

あなたは、そんなつもりはなかっただろうけど、何十年もたってるけど、国も年代も違う私のところにも愛が届けられたよ。

そして、私も愛の人になりたいって思ったよ。
あなたみたいに愛を誰かに渡していきたいよ。

私も誰かに愛を渡していく。
見返りを求めない愛は最初難しいかもしれないけど、愛を渡して、届けて、何十年、何百年先の誰かを励ましたり、緩めたり、包んだりできたらなんて素敵なんだろう。

愛は時空を超えて存在し続ける。


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